新年カフカ・再読フェア開催中!
ひさしぶりに読み終えて、あれ、これは未完作品だったかな? って思ったけれども、そうでもないようだ。
ある日ブルームフェルトが自室に戻ると、青い模様入りの小さなセルロイドのボールが2つ、意志を持っているかのように交互に跳ねていた。
その2つのボールに神経をかき乱されつつも若干の親近感を覚えてしまうブルームフェルト。
しかし、やはりボールの忌々しさに我慢ならず、ある手を打って翌朝仕事場に赴いた。
仕事場では、役に立たない2人の助手に神経をかき乱される。
で、仕事場でこの話は終わってしまうので、結局ボールの件はどうなったのかわからない。
ええーっ! どうなったか知りたいのになーっ! とうっかり思ってしまったのだが、それがカフカ作品のおもしろみのひとつであったことを思い出す。
投げ出しとも感じられるほどの唐突なフィニッシュ。
とはいえ、この作品は、結局のところ、自室での2つのボールと、仕事場での2人の助手の、シンクロの滑稽味が狙いなのだから、オチなんかは必要ないのである。
かっこいい潔さ。
それにしてもひとつひとつのありえない描写がおもしろい。
非現実的なボールの動きが、ぎりぎりで現実味を帯びてくるところなんか、“変身”の虫なんかとおんなじ仕組みかもしれない。
で、あいかわらずそうやって、表現のユーモアにほくそえみながら読むのもよし、いや、この作品では、忌々しくとも逃れられない運命への苛立ちと嘆きが描かれているのだ、なんて想像力をたくましく働かせて読むのもよし。
解釈の自由度の高さが、カフカ作品のいちばんの魅力なのである。
うまいなあ。
――中年のひとり者ブルームフェルト――
カフカ
訳 池内紀