たとえば空襲で焼け野原になったあと
あらゆるものを失ったとき
ひとはまず何を必要とするだろう
雨風を凌げる住居
寒さを和らげる衣服
ひもじさを感じさせない食べ物
生きていくには必ずなくてはならないもの
あるいは家族や友だちであったり
あるいは自分が静かに自分でいられる場所であったり
食べ物を求めてさまよう焼け跡の街
疲れ果てたそのとき老人が露店を広げていた
焼け残った紙の本たち
そういえばあれから本を読んでいない
並べられた本の題名と作者を端から目でなぞる
本で空腹が満たされることはないけれども
本を読みたいという衝動がからだの内側から湧き上がってくる
はたしてそういう場面を経験することは
これから起こり得るのだろうか