作品と読者というのは、えてして人間どうしの場合とおなじで、いかんともしがたい、理屈抜きの相性というもので結ばれるものなのである。
そして、好きな作品については語らずにはいられないことになる。
十三月怪談。
すばらしい。
川上未映子さんの作品は、無条件でぼくにフィットする。
ぼくがふだんなんとなく思っていることや感じていることが、文章に化けてページにあらわれているかのようだ。
読みたい文章がここにはある。
作品を重ねるごとに、ますます発想と表現に磨きがかかっている。
世界文学になりうるのではないかな。
この作品の感覚は、世界中で生きているひとに共通するもののような気がする。
時間の感覚の無秩序や自分の脳内で進む想念の発展とか。
思考実験の小説としても読ませる。
よくもまあ、経験したことがないことについてここまで想像を膨らませることができるものだ。
相手のしあわせを願う気持ちとか、自分の死、大切なひとの死とか。
死後の世界のひとつの形態まで描かれていたりして脳がぱあっと開かれる感覚。
確かに怪談であり、同時に愛の物語であり、そして孤独の概念である。
的外れかもしれないが読みながら夏目漱石さんの夢十夜の第一夜を思い浮かべていたぼく。
あの作品もホラーでありラブストーリーである。
実際に時子のような女性と暮らすと面倒くさくて仕方がないのが容易に想像できるが、潤一と時子の関係性や交わすことばのあれこれは、ぼくのあこがれるそれらに限りなく近くて、読んでいて幸福な気分になる。
ああ、これはほんとうにうつくしい人間の愛の怪談だ。
――十三月怪談――
川上未映子