沖で待つ | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

死ぬときっていうのは、なかなか準備ができないものである。


それこそ自発的に、さあこれから死ぬぞ、っていかない限り、だいたいは死後の準備というか、身辺整理などはできないことになっている。


死ぬことを、旅立つ、といったりするけれども、ならば、立つ鳥あとを濁さず、とか、キャンプ場などに掲げられている看板のように、来たときよりも美しく、というように、あっちの世界への旅立ちに際しては、こっちの世界での生活感というか生きてきた垢というか、そういったものをきれいに片づけておきたいところである。


とまあ、まわりくどく言ってはみたが、ひらたく言えば、遺族に見られたら困るようなものは、生前に処分しておきたいところだ。


あるでしょ、そういうの、誰にでも。


オーソドックスなところでは、たとえば女性なら、密かに隠し持っているBL本とか、男性なら、そのものずばりのアダルトDVDとか。


あるいは、昔の日記帳だったり。


そういう現物は、ちょっと考えればいろいろと思い浮かぶでしょうけど、盲点なのは、自分のパソコンとか携帯電話とか。


家族には絶対に見られたくないような、やばいファイルとかサイトの閲覧履歴とか、メールとかありますよね。


お願いだから、ぼくが突然死んでも、チェックしないでほしいです。


そうやってお願いすると、俄然見たくなるのが人情なので、余計に危ないですけど。


下手をすると生きているあいだにチェックされて修羅場になったり気まずくなったり。


ぼくが遺族の立場なら、絶対にみませんよ。


でも、良い感じのドラマだと、遺族がチェックしたパソコンに、生前の感謝の気持ちや思い出を綴ったファイルなどが発見されたりするんですけどね。


いや、そんなのは甘い妄想で、現実はやっぱり知らない方がよいと思います。


さて、絲山秋子さんのこの作品。


同期入社の2人が、どちらかがなんらかの原因で突然死んでしまった場合に、残った1人がパソコンのハードディスクを人知れずに壊そうという協定を結ぶお話。


読みやすい文章で淡々と綴られている印象ですが、冒頭と結末の部分がやや奇抜です。


中間部だけでもよかったような気もしますが、冒頭と結末で何かの効果を狙っているのでしょうね。


ハートウォーミングといえばそうとも言える、ユニークなアイデアの作品でした。





――沖で待つ――

絲山秋子