見たくないものは、見えない。
あっては困るものは、ないことにする。
いや、ほんとうは見えているし、あるのも知っているんだけどね。
でもそこはそれ、みんなおとなだから。
それなのに、それなのに。
みんなせっかく無視して黙っているのに。
なんで出てきちゃうかな。
論理的にこんなところに存在するわけがないのだから、現実の方が間違っている。
苛立つおとなたち。
仔象くん、きみはそうまでして自己の存在を主張したいのかね?
いまいましいその存在。
そしてそれに対するおとなたちの残酷な憐憫。
安部公房さんの、夢から切り取られたスナップ写真のようなこの寓話は、読めば読むほどにじんわりと胸の内壁に爪を立てて引っ掻くのである。
――公然の秘密――
安部公房