ボストン美術館 日本美術の至宝 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

美術館にはね、できるだけ平日に行きたいものなんだよね。


しかもいまはゴールデンウィークまっただなかで混んでることは必定だし。


けれどもせっかく天王寺を経由するのだし、こんどはいつ平日に訪れることができるかというと怪しいし。


迷いに迷って結局訪れました。


大阪市立美術館で開催中の特別展

ボストン美術館 日本美術の至宝。


久しぶりの大阪市立美術館だ。


たしかに歴史に洗われ練られた立派な建物である。


入館して、まずはロッカーにすべての荷物を預けるのがぼくのパターン。


こうすると身軽に動けるからね。


展示室の手前で、音声ガイドのスペシャル・ナビゲーターがぼくの好きな中谷美紀さんであることに気が付く。


これまで音声ガイドを使ったことはないのだが、せっかくなので今日は使ってみよう。


冒頭から中谷美紀さんによるプロローグがぼくの左の耳元でささやかれる。


やさしくてふかい、そして微妙になまめかしい中谷さんの声に、左耳がここちよく痺れる。


ああ、なんだか中谷美紀さんとふたりでこの展覧会をめぐっているような妄想を抱いてしまう。


ぼくのふだんから鍛えられたこの妄想力をもってすれば、まわりのひとの気配なんて簡単に消し去れる。


それはさておき、最初の展示である岡倉覚三(天心)像があまりにすっきりと上品に凛々しく佇んでいるのでびっくりする。


手に持つ竿が目を引く。


かっこいいやん。


第1章は、仏のかたち 神の姿。


さすがにひとが多くて、近付いてほとけさまたちのお顔にうっとりとできる状態ではなかったけれども、快慶作の弥勒菩薩立像はあまりにもうつくしく、手を合わせるよりもさきに目が奪われてただただとろける。


やはりほとけさまは絵よりも像だと思う。


それにしても、こんなにすごい日本の美術品が、ボストンにあるというのはなにか落ち着かない。


アメリカ人にこれの良さがわかるのか。


第2章は、海を渡った二大絵巻。


吉備大臣入唐絵巻と平治物語絵巻 三条殿夜討巻。


これはあまり見られる機会がないのではないか。


絵巻物としてはかなりの大作とお見受けした。


ゆっくり見たかったけどひとが多くて断念。


第3章は、静寂と輝き――中世水墨画と初期狩野派。


狩野雅楽助の筆と伝えられる松に麝香猫図屏風がイカシテいた。


猫ちゃんがもふもふでかわいらしい。


っていうか雅楽助と書いてうたのすけと読ませる狩野雅楽助のセンスに参った。


第4章は、華ひらく近世絵画。


長谷川等伯の龍虎図屏風と伊藤若冲の鸚鵡図(おうむず)にそれぞれのらしさが出てて素敵。


そしていよいよ第5章、奇才 蘇我蕭白。


この特別展のポスターでも使われている雲龍図。


蘇我蕭白(しょうはく)の名前は知らなくてもこの絵のインパクトはものすごい。


タッチが独特で、日本の美術の流れからこの絵師が生まれたというのは異質ということになるのだろうか。


日本人のセンスとはやや違うのではないか、たとえばアメリカ人が日本の美術を学んで描いたらこういうことになるのではないか、と思える構図や線。


初見の感想は、ポップ、ということであった。


それにしても力強い。


雲龍図の迫力は元気をくれる感じ。


ふすまの中から生きた龍が飛び出してくるようなエネルギーを感じる。


この展覧会の第1章のあたりで、これほどまでに重要な日本の美術品がボストンにあるということに落ち着かなさを感じていたぼくではあるが、解説を聴いていくにつれて、アメリカ人が日本を理解するうえでは、このコレクションというのは、非常に意味があるものに思えてきた。


ボストン美術館は東洋美術の殿堂と称されるとのことだが、このボストン美術館で日本のコレクションに出会ったアメリカ人が日本に憧れを抱いたとしたなら、それはなんてうれしい巡り合わせなんだろう。


フェノロサ、岡倉天心、ビゲローの各氏の仕事に拍手を送りたい。


そして見事な里帰り展を企画したコーディネーターの方にも。


この特別展は、東京、名古屋、九州を経て、ここ大阪でラスト。


このあと、ボストンに帰っちゃうのね。


名古屋に名古屋ボストン美術館というのがあることも驚きだけど。








ちなみに、ぼくはそのあと裏の慶沢園に立ち寄った。


長年、大阪で暮らし、天王寺動物園をはじめ、美術館や公園などこのエリアには数十回は足を運んでいるぼくなのだが、慶沢園のことは最近まで知らなかった。というか知っていたけどスルーしていた。


大阪市立美術館の廃止だとかなんだとかのすったもんだの際に話題になっていたので、ちょっと行ってみたのだが、なかなか良い、穴場的な空間であった。


日本庭園なので日本人のみならず外国からのお客さまにも喜ばれるだろう。


これまで目立たなさ過ぎていたせいで、管理が少し甘いような気もしたのだが、訪れる人が増えて関心が高まれば、一生懸命管理をして美しさが復活するに違いない。


新世界、通天閣、天王寺動物園、市立美術館、慶沢園、天王寺公園、あべのハルカス、あべのキューズモールと、天王寺・阿倍野界隈もうめきたのグランフロントに負けずになんだか熱いことになっているじゃないか。