新聞で島田雅彦さんのインタビューの記事を読んでこの本を手にとった。
井原西鶴さんの好色一代女を世界的な名作と絶賛し、いまの日本女性をモデルに好色一代女を現代によみがえらせるという。
自分には娘はいないがもしいたらこんなふうに育てたいという妄想を炸裂させながら好き放題に書いたらしい。
あいかわらず本気なんだか冗談なんだか紳士的にひとを喰った弁舌にほくそえむ。
ライトノベルを意識して主要な登場人物のイラストを巻頭と巻末に掲載している。
絵師はテルマエ・ロマエのヤマザキマリさん。
主人公の白草千春は絶世の美女なのだが、絶世の美女を絵にするというのは難しいだろうな。
ひとによって絶世の美女の定義っていうか好みは違うだろうからね。
確かにイラストの白草千春はきれいだけれど、ぼくは千春の親友の甲田由里のほうが好き。
単にフェミニンなロングより聡明なボブに惹かれるっていうだけなんだけど。
それよりイラストで描かれる男性登場人物たちがどこぞの文豪に似ているのでなんだか笑える。
さて内容である。
もしぼくが絶世の美女として現代日本に生まれていたらどんなふうに生きるだろう。
とてもじゃないけど白草千春のようには生きられない。
絶世の美女であるがゆえに10代のころからろくでもない運命に翻弄される。
富も名誉も持つだらしがない男たちにさんざんな目に遭わされる千春。
千春も千春でその渦に対してさほど抗うこともなく巻き込まれていく。
中盤まで延々ろくでもない男たちと千春との性愛が描かれていて、はっきりいってなんだこりゃ、と呆れながら読んでいたのだが、終盤に千春が落ちぶれて駄目男たちに復讐を開始するあたりから、島田ワールドが全開になってきて、ぐいぐいページが進んだ。
女性の読者はどんなふうにこの作品を感じるのかわからないが、少なくとも中盤まではおそらく不愉快な印象を持つひとも多いだろうと思われる。
けれどもそこであきらめずに最後まで読み通すと爽快感を得られるような気もするが果たしてどうだろうか。
島田雅彦さんは作家生活30年らしい。
初期のころとは打って変わって、近頃はわかりやすいエンターテインメント作品を描いており、ぼくとしてはかなり物足りなくもあるのだが、作品のなかで描かれている独特の人間観は一貫しており、ぼくの人格形成にもおおいに影響を与えていることはどうにも疑い難い。
永遠の青二才。
深刻にならずにあっけらかんと常識と予定調和をすり抜けていく。
――傾国子女――
島田雅彦