深夜の帰り道。
ふと空を見上げるとオリオン座が目に入った。
この星座だけはぼくでもすんなりわかるんだよね。
ベテルギウスとリゲルは有名だけど、真ん中にみっつ並んだ星の名前はミンタカ、アルニラム、アルニタクっていうんだって。
ミンタカ、アルニラム、アルニタク。
ミンタカ、アルニラム、アルニタク。
なんだか呪文のようだ。
冬の星座とももうじきお別れ。
――ぼくは星空が好きなんだ。一緒にプラネタリウムに行かない?
星空が好きなのは本当なんだけど、なぜだかあの空間に入ると眠気がやってくる。
そしていつしかZZZZZZZ。
――あのとき、星空が好き、なんてロマンチックなことを言っておきながらぐっすり眠ってたよね。
ことあるごとに過ぎた話でからかわれたりなんかして。
ミンタカ、アルニラム、アルニタク。
地球の周りを空が回っている。
いまは誰もそれを信じないけど、地球が中心だってかまわないんじゃないかな。
――ぼくは星空が好きなんだ。一緒に夜の砂漠に行かない?
ミンタカ、アルニラム、アルニタク。
――ぼくは星空が好きなんだ。一緒にボートで夜の海に漕ぎ出さない?
ミンタカ、アルニラム、アルニタク。
椎名誠さんの土星を見るひと。
望遠鏡のレンズに捕えた土星。
しっかり枠に捕えたつもりになっていても、ちょっと目を離しただけで土星は枠から逃げ出して。
まるで誰かさんと誰かさんのようだね。
星だってひとだっていつまでもひとつところに留まっているわけじゃないんだ。
土星の観測をするひと。
何十年も前の誰かの研究を引き継いでようやく自分の代でなにがしかの発見にたどり着いたり。
あるいは何十年も先の誰かに研究を引き継いでようやくそのひとの代でひとかどの研究の成果を得たりして。
気の遠くなるような年月にわたる、星に人生を捧げるひとたちのリレー。
オリオンの砂時計が刻むときの長さにうっとりする。
星ははるかに、ひとはささやかに。
ミンタカ、アルニラム、アルニタク。
ミンタカ、アルニラム、アルニタク。