おそらくこの本がぼくにとっての2012年最後の1冊になりそうだが最後の最後にすごい本を読んだという気分だ。
高橋源一郎さん。
何年も前から知ってはいるが小説作品を読んだことは実はなかったのではないか。
ぼくの好きな形而上的な問いが全編にちりばめられている。
さよならクリストファー・ロビン
峠の我が家
星降る夜に
お伽草子
ダウンタウンへ繰り出そう
アトム
連作短編ではない。
長編である。
しかし各章はまったく異なる独特の文体で表現されている。
実に技巧的だ。
それでありながら全体の調和がみごとに実現されている。
虚無とのたたかい。
ぼくは能動的ニヒリズムなることばが好き。
単にニヒルなのはなにかから逃げている気がするので好きではない。
けれどもぼくたちの世界はニヒルになるしかやっていけないような状況であるという認識も抱いている。
だからせめてこの虚無をむしろ能動的に捉えながらいまを生きてみようじゃないかって思っている。
そんな感じ。
とはいえ虚無による退廃は魅力的だ。
飲み込まれないように気をつけたいとも思っている。
各話の初出は「新潮」2010年1月号から2011年8月号。
この1年半の間に決定的な2011年3月11日。
読者であるぼくの勝手な推測ではあるが作家の高橋源一郎さんは苦悩している。
苦悩がそのまま問いとして作中にばらまかれている。
虚無に対する態度は地震と原発事故の以前と以後では同じでいられるわけがない。
それは作家のみならず読み手のぼくたちも同じだ。
くまのプーさん
フォスターズ・ホーム
アトム
おなじみのキャラクターたちが奏でる虚無の変奏曲。
アトムとトビオのやりとりがおそろしく深い。
手塚治虫さんの鉄腕アトムのなかから「地上最大のロボット」の回を浦澤直樹さんがリメイクした
PLUTO
を既に読んでいるのでその世界とも自分の頭のなかでミックスしてしまい勝手に凄みを増してしまったところもある。
さらにたまたまこの作品のすぐ前に読んだ宮沢賢治さんの銀河鉄道の夜のモチーフ。
びっくりした。
読んでいたから余計に胸に迫ってきた。
ついつい読みながら期待してしまった問いに対する答えのようなものは当然のことながら提示はされない。
あるのかもしれないがぼくには気づけなかった。
けれどもこの世界を覆い尽くそうとする虚無に対して
ノン
ということの意味を考えるにはうってつけの1冊だった。
さてもう一回読もう。
――さよならクリストファー・ロビン――
高橋源一郎