ゼロからトースターを作ってみた | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

まずは表紙の写真。


一見しただけでは何のことやら理解できない。


おぞましさすら感じる。


この本をイメージするオブジェ?


塗りすぎたバターのメタファー?


しかしこの本を読み終える頃には深みをともなって見えてくるからいと不思議。


原題は

The Toaster Project.


作者は2009年に英国王立芸術大学大学院を卒業したデザイナー。


在学中にスタートさせたのがこのトースター・プロジェクト。


何をするか。


卒業制作展に向けてトースターを作るのだ。


トースターを作る?


そう文字通りゼロから。


自力で原材料を調達するところから作ろうという趣向。


家電量販店で購入すれば4ポンドもかからないトースターを

自力で作るのにかかった費用は約1,200ポンド。


なぜトースターなのか。


それは本を読んでいただきたい。


ちなみに本の冒頭に次の引用がある。


--自分の力でトースターを作ることはできなかった。せいぜいサンドイッチぐらいしか彼には作ることができなかったのだ。(ダグラス・アダムス『ほとんど無害』)


この引用のイメージを持ちながら読み進めるといい方向に裏切られる。


まずは市販のトースターを解体し原材料を把握するところから。


マイカ

プラスチック

ニッケル


それぞれの原材料を入手するため

鉱山に赴き

穴にもぐり

水を汲み

さまざまな冒険を繰り広げる。


はっきりいって若さゆえのエネルギーの暴走。


出鱈目。


無茶苦茶。


でもそれが実に楽しいんだなあ。


文章がユニークでユーモアにあふれている。


作者自身がまじめにふざけていておもしろがっている。


そして

妥協

諦め

ずる

言い訳。


気持ちいいくらい柔軟というか正直というかいい加減。


プロジェクト開始当初の高い理想は

技術と時間と予算の都合でどんどん低くなっていく。


それでもやがて少しずつ出来上がっていくトースター。


いや出来上がってるのか?


おなかを抱えて笑いながら読み進めていて

とうとう最後の組み立ての章。


おーっと

どうしてこんな作品で涙がじわりとあふれて来るんだ?


不可思議だ。


あいかわらずのユーモアを交えながらも

剛速球の文明批判が突如繰り広げられる。


最初からこれをされたのなら説教くさくて読む気にならなかっただろう。


しかしここに至るまでのドンキホーテ的無鉄砲な冒険を知っているから

すんなりと受け入れられる。


価格に反映されないコストは必ずどこかにツケを残している。


たとえば未来の地球の環境。


未来といってもそれは遠からず。


みずからの弱さも認めるところがぼくには好感がもてる。


自分のことは棚において何かを批判する人が多いからね。


適切な廃棄に向けてのコスト感覚の提言も

今さらながらではあるものの繰り返すにしくはなし。


トーマス・トウェイツさん。


おぬしなかなかやるな。


最初からわかってやっていたのか

はたまたやりながら思い浮かんだのか

それは怪しいものだけど

すごく効果的な構成だ。


化学や地学に詳しければさらにおもしろいだろうけれども

ぼくみたいな理科ヘイターでも笑い転げて読みふけられたこの本。


そもそも作者自身がそんなに化学や地学に詳しいわけではないからね。


軽く一読

お奨めです。


なんでもやってみるもんだなあ。


そしてどんな題材でも

表現しだいでひとに訴えられる作品になるものだなあ。





--ゼロからトースターを作ってみた--

トーマス・トウェイツ

訳 村井理子