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誰にもあげることはできないのだ
詩はネクタイとはちがって
私有するわけにはいかないから
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で始まる
詩を贈ることについて
この
詩を贈ろうとすることは
はぼくのもっとも好きな
谷川俊太郎さんの詩集のひとつです。
詩集というと
自分の感受性が試されているのかと思うくらい
鋭敏に研ぎ澄まされているときでないと
ちんぷんかんぷんなことが多いのですが
谷川俊太郎さんの詩は
天才的に軽々としていて
いつもの退屈なぼくの感受性でも
なにかを感じることができるのです。
なかでもこの詩集は
表現方法もテーマもバラエティに富んでいて
さながら谷川俊太郎さんの詩の
デパートのような趣きです。
この詩集の作品は全部好きなのですが
特に
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結婚は鍋である
どんな鍋かとは問わないでほしい
別に結婚は箒である
と言っても変りはないのだから
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で始まる
多面的真理に関するテーブル・ポエム
は結婚というものに対するぼくの考え方に
おおきな影響を与えています。
この始まりからは想像もつかない詩の結末に
希望の光がひろがります。
ほかにもお気に入りは
猫を見る
ふたたび猫を見る
みたび猫を見る
猫に見られる
と続く連作詩でなかでも
猫に見られる
のなかの
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身近なものをおそれるあまり
遠くを見すぎて
男の心は宇宙のようにスカスカだ
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というくだりは
ぼくのなかの臆病な自尊心を
ぴたりといいあてられているようで
いまだに心地よいトラウマです。
難しい語彙を用いずに
ここまで多彩な詩を紡ぐ
谷川俊太郎さんは
詩の世界のモーツァルトです。
-詩を贈ろうとすることは-
谷川俊太郎