オスカー・ワオの短く凄まじい人生 | (本好きな)かめのあゆみ

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かしこいカシオペイアになってモモを手助けしたい。

愛の物語。

独裁者に生命や幸福を奪われる国民の不幸の物語。

ひとまずこういってみる。


ドミニカの独裁者トルヒーヨの治世。

独裁者とか強権体制とかおそろしい。

おそろしすぎる。

想像しただけで痛いし苦しいし泣きたくなるし絶望する。

おしっこがもれそうになる。

実はトルヒーヨの時代が去っても

世界がそう大きく変わるわけではないのだが。


米原万里さんの

オリガ・モリソヴナの反語法

を思い出しながら読んでいた。

スターリン時代のソ連の物語。


ロシアとドミニカの強権政治の悪夢の雰囲気には

共通する部分とそうでない部分があって

残虐性や相互不信の醸成という部分は共通する部分で

けれどもスラヴとラテンの違いもあるのかも。


ドミニカのギャングは分かりやすいというか。

それでもむちゃくちゃだが。


ジュノ・ディアスさんが描く

オスカー・ワオの物語は

ユニークな文体と構成で

ポップさに彩られたリズミカルな世界だった。


駆使されるSFやアニメなどの用語が

たとえ親切な注釈を読み飛ばして

意味が分からなくてもたのしいし

(実際注釈を読んでもほとんど分からない)

重たいテーマをユーモアにくるんでくれている。


悲劇をユーモアを用いて表現した作品が

ぼくは好きだ。


オスカーの滑稽な生き方を

友人といっていいのかどうかよく分からない

ユニオールが語る目線が

付かず離れずでちょうど良い距離感。


オスカーの家族を捕えて離さない

フク

という名の不幸の連鎖。


オスカーや家族に感情移入せずにはいられない。


では

オスカーは不幸だったかどうか。


否。


ラスト

まさしく凄まじい人生だと思う。


サトウキビ畑

マングース

顔のない男




だれが呼んだか

アラブの春

といわれる昨今の国際情勢。


体制を変えるというのは

とんでもなくたいへんなことだし

報道されない部分では

想像を絶する不幸な事件が人々を

襲っているはずだ。


日本にもこういう歴史はあっただろうと思う。


隣国でも。


それを

文学の力を借りて

当事者がいずれ語れるようになることが

せめてもの犠牲者へのはなむけに

なるのだろう。


世界文学です。





余談ですが

作中でオスカーが好んで観ていた日本映画

復活の日

観てみたくなりました。




-オスカー・ワオの短く凄まじい人生-

ジュノ・ディアス

都甲幸治 久保尚美 訳