オメラスから歩み去る人々
のテーマにより
オメラスから歩み去ったひとりの女性の
その後を追った作品です。
彼女は恋人とともに
オドー主義を生み出し
その後のオドー主義者たちのありようを描いた
所有せざる人々
という作品に続くそうです。
作品中の
オドー主義とは
無政府主義(アナーキズム)です。
けれども
暴力的なテロリズムでもなく
野放しの自由経済至上主義でもありません。
権力主義国家(資本主義も社会主義も)を批判し
自由な人々の意思による
連帯と相互扶助により行動します。
ひとりの子どもへの不条理な虐待と引き換えに
後ろめたい幸福を約束されたまちオメラスに
居続けることをよしとせず
オメラスから歩み去ったオドーは
彼女の恋人と
理想的な社会の創造に向けて
情熱を傾けて尽力し
やがて指導者として
支持者から崇められる存在になります。
けれども
支持者の熱狂やオドー主義の躍進とは裏腹に
オドーは
獄中で亡くなった恋人の喪失感や
老いていく自らの肉体や精神に
哀しみを感じます。
私自身
ではなく
役割
として扱われる虚しさ。
どんなに理想的な主義主張も
愛する人を失ったあとの
こころの空虚を埋めることは
できないのです。
-革命前夜-
ハヤカワ文庫 風の十二方位所収
作 ル=グウィン
訳 佐藤高子