ぼくがまだ
少年だったころ
同級生たちと
山のキャンプ場に出かけた
何人かのグループで
買出しに出かけた帰り道
強いにわか雨に見舞われ
古い山寺の境内に
逃げ込んだ
お寺の縁側みたいな場所に
ぼくは座って
濃い緑の木々を背景に
降りしきる雨の軌道を
ぼんやりと
眺めていた
ふと隣に誰かが座った
ぼくが好きな女の子
彼女はぼくの気持ちなど
考えることもなく
ただそこにふわりと
腰掛けていた
なんとなくふれあう
手と手
みつめあう
目と目
なんてことを夢想する
ぼくにお構いなく
彼女は静かに
雨を眺めていた
言葉より前の幸福感
途切れない雨でにじむ緑に
焦点がぼやけ始め
激しく屋根をたたく雨音は
ときが止まるくらいに静か
そして彼女がそこにいて
この雨がいつまでも
降り続くかのように
雨が降ると
しばしば思い出す光景
本当にあったことのようでもあり
美しく塗り替えられた
記憶のいたずらのようでもあり
いまとなっては
それが現実かどうかは
たいした問題ではなくて
なんだか胸がきゅっとなる