「東京理科大学で教職課程の講座に芸人を使う」という話について | 作家・土居豊の批評 その他の文章

「東京理科大学で教職課程の講座に芸人を使う」という話について

「東京理科大学で教職課程の講座に芸人を使う」という話について、筆者がRTツィートしたところ、ものすごい反響があった。

 

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そこで、実際どうなのか?少し考えてみたい。

まず、当該報道についてだが、事実関係がやや怪しい。

 

 

※参考記事1

https://mainichi.jp/articles/20210315/k00/00m/040/280000c

【教員志望者は芸人から表現力学べ 東京理科大が科目新設】(毎日新聞 2021/3/16 08:00 最終更新 4/1 16:26)

引用

《東京理科大は来年度から、教員を目指す学生を対象に、プロのお笑い芸人から発信力や表現力などを学ぶ選択科目「教職パフォーマンス演習」を新設する。》

 

 

とあるのだが、この科目は、すでに昨年度も開講されているようだ。

※参考1

東京理科大学HPより

教職パフォーマンス演習

https://www.tus.ac.jp/ks/wp-content/uploads/2019/05/教職課程の到達目標.pdf

(2020年9月時点)

教職パフォーマンス演習担当教員

教育支援機構教職教育センター准教授 井藤 元

《「教職パフォーマンス演習」では、受講者が、自らの手でゼロから漫才台本を作り、人前で漫才を披露 することを通じて、教員が身につけるべきパフォーマンス力の育成を目指す。》

 

 

と、このようにすでにこの講座は開講されている。昨年度までは准教授が担当していたが、今年度から担当講師として新たに芸人を雇う、という話なのだろう。

 

上記報道によると、

引用

《2020年度以降、小中高で順次導入される新学習指導要領は「主体的・対話的で深い学び」の実践を重視する。生徒たちに課題を見つけさせ、その解決方法について生徒同士で議論させ、導いていく力が求められる。井藤准教授は「お笑い芸人やタレントは『表現のプロ』。その人たちがそれぞれに合った表現で人を引きつけていることを間近で感じてもらい、自分に合った表現や伝え方は何かを考えるきっかけにしてほしかった。教壇に立った時に、授業の運営や子どもたちとの関わりの際に生きてくるものがあると思う」と話している。来年度から新設する選択科目「教職パフォーマンス演習」は教職課程を履修する3、4年生が対象で全8回。プロのお笑い芸人が講師となり、漫才づくりを通して言葉の選び方、観客に合わせた伝え方などを学ぶ。》

 

とのことだ。

このことの是非を、今更論じてもしょうがない。

この大学での教職課程の根拠は、新指導要領だ。その中で強調されているアクティブラーニングについて指導方法を模索する中で、この大学の「芸人」講師のアイディアも出てきたのだと思われる。

 

以下、新指導要領における「パフォーマンス」指導の資料を見ておきたい。

 

 

※参考2

文科省HPより

新学習指導要領関連

2.学習評価の在り方について(平成28年時点)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/112/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2016/06/06/1371753_10.pdf

 

 

※参考3

文科省HPより

新学習指導要領関連

「平成28年度総合的な教師力向上のための調査研究事業」における「メンター制等による研修実施の調査研究」

最終報告書 平成29年3月21日発行

編集:富山大学人間発達科学部

4章 パフォーマンス評価についての教師力向上に向けた研修の方向性

https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2017/10/04/1395572_02.pdf

 

※参考記事2

子どもの学びをみとる評価とこれからの学習活動の在り方 「何が身に付いたか」

NEWトピック教育課題 2019.09.24

新学習指導要領

https://shop.gyosei.jp/library/archives/cat01/0000002972/2

パフォーマンス評価の活用

 

 

これらの資料を参考として、今回の東京理科大の「教職パフォーマンス演習」の講座のありようを、客観的に議論してみてはどうだろう?

芸人を講師にして、パフォーマンス術を習い、教職についた際にアクティブラーニングに少しでも活かすことができるなら、それは全く無駄なこととはいえない。

だが、筆者は懐疑的だ。なぜなら、すでに大阪府では類似の教育実践を経験済みなので、はたしてどれほどの効果が上がるかどうか、疑問があるからだ。

つまり、以下のように、大阪府立高校で芸能文化の専門学科が行われているのだが、その教育の成果が教職に就く際に直接役立つかどうか不明だ。

大学での教職課程に「芸能」の専門授業を導入した結果、教育現場にどの程度成果が表れるのか、文科省自体も今後、追跡調査をしてほしいものだ。

少なくとも、小中学校、高校の現場で、芸人もどきの先生が笑いを取ることを目的化するのは困る、ということだけは間違いない。

教師が生徒の笑いを取ることと、授業目的との関連について、教職教育の専門家の意見をぜひ聞きたいものだ。

 

※参考4

https://www.osaka-c.ed.jp/higashisumiyoshi/geibun/

大阪府立東住吉高校 芸能文化学科HP

《卒業後の職業等の選択

卒業生1~21期生776名が卒業し、高校卒業後や大学等卒業後に関係職種に就いています。普通科より割合は多いですが、一般の企業のほうが多いと言えます。

<高校卒業時の進路(大学以外)>

芸能関係に進んだ分野

・宝塚音楽学校、TV番組制作会社、舞台俳優(劇団)、漫才、俳優(東映)、歌舞伎俳優

・舞台技術員、モダンダンス指導、落語家、講談師、邦楽家(小鼓、和太鼓)

・舞台技術(劇団四季、映画会社)

・アニメ編集プロダクション、イベント企画会社、狂言方能楽師、舞踏家、タレント

・・・など。

☆ 現在、演劇家や講談師・落語家、宝塚歌劇団、歌舞伎、能楽師、タレント、技術スタッフなどにおいても活躍している者がいます。》