タカラヅカ『ガイズ&ドールズ』(浦澄彬の批評アーカイブ16) | 作家・土居豊の批評 その他の文章

タカラヅカ『ガイズ&ドールズ』(浦澄彬の批評アーカイブ16)

世界が全てブロードウェイ・ミュージカルだったなら  (2002.1.27)
道頓堀の初春大歌舞伎を観て、その翌日、タカラヅカの『ガイズ&ドールズ』を観た。我ながら、なかなか優雅に暮らしている。
 
『ガイズ』は、ブロードウェイのヒット作で、タカラヅカではこれが二度目の舞台だ。典型的なアメリカン・
ライト・コメディで、けっこう笑わせられる。最後もあっけないほどのハッピーエンドだ。
 
舞台の上のニューヨークのビル街をながめながら、否応なく、崩落するWTCを思った。
 
ブロードウェイのミュージカルは、基本的に明るい。それはロンドン・ミュージカルと比較するとはっきり
わかる。アメリカ人の舞台の楽しみ方は、まず笑いのようである。その中では、世界はあくまでも正義に
貫かれ、愛に満ちている。
 
日本人は、いつからブロードウェイ・ミュージカルを好きになったのか。アメリカ軍に占領されてからだ
ろうか。それはともかく、アメリカのミュージカルが好んで上演される場所は、すでにアメリカのグローバ
リズムに染まっている地域であろう。日本ではあたりまえに上演されるし、その技術もあるが、中国では、
なかなかそうはいくまい。ましてや、アフガニスタンでは無理だろう。
 
グローバリズムは世界を均質化するという。アメリカの価値観でならされた世界では、共通の娯楽と
して、ブロードウェイ・ミュージカルがヒットするに違いない。
 
もし、世界中がブロードウェイなら、きっと平和で、毎日明るく楽しい生活が続くだろう。
だが、そうでは
ないのだ。先進国の中で、最もアメリカの植民地と化している日本でさえ、みんながブロードウェイに拍手
するわけではない。歌舞伎で心中ものに涙する方がいいという人が、まだまだ大勢いるのだ。
 
経済のグローバル化が進むにつれ、逆に文化のナショナリズムは反比例するように思える。タカラヅカ
のやったブロードウェイ・ミュージカル、ということ自体が、それを示している。
女性だけの劇団がこれほど
人気を保っている。そんなことは、アメリカではきっとありえないだろう。男ばかりの歌舞伎の舞台だって、
アメリカ人にはよくわかるまい。
 
たまにはブロードウェイもいいが、毎日はちょっと飽きる。ハンバーガーと同じだ。