ジャメイカ・キンケイド(浦澄彬の批評アーカイブ7) | 作家・土居豊の批評 その他の文章

ジャメイカ・キンケイド(浦澄彬の批評アーカイブ7)

ジャメイカ・キンケイドを読んで (2001.3.15)
知人の橋本安央氏の訳したアメリカの作家ジャメイカ・キンケイドの『弟よ、愛しい人よ、メモワール』を
読んだ。
この作家のものは初めて読んだのだが、大変感銘を受けた。
 
この本は、エッセイのように書かれているが、小説として読むべきもののように感じた。それぐらい、作者
の家族への思いが生々しくかかれている。
死にゆく弟への愛憎、母に対する屈折した思い、故郷の土地へ
の恨み、それらが事態の進行と共に、どちらかというと淡々と語られる。その分、作者の感情の激しさが
より伝わってくる。
自らの生活をも侵蝕しようとする「死」への恐怖、自分も弟と同じ運命であったかもしれな
いという思い、作者はそれらの思いに真正面から向き合って、静かに語っていく。その作家としての決意の
強さに打たれた。
 
今、日本においても、家族や自分のことを赤裸々に語ったものがよく読まれている。キンケイドのこの作品
を読むと。自分を語ることへの覚悟が感じられて、ある種のすがすがしさをおぼえる。
 
また、作者はカリブ海の小さな島の出身だが、今、日本でもカリブ海がリゾートとしてもてはやされている。
しかし、そのことが現地の人々にとってどういう意味を持つのか、考えさせられた。全てを金の力で押し通そ
うとする日本人のメンタリティーに思い致された。
 
訳者の橋本氏は、非常に読みやすく、また格調高い文章で、この作家の本質を明らかにしていた。一読を
お勧めする。