朝比奈隆の快演で気分爽快(浦澄彬の批評アーカイブ1) | 作家・土居豊の批評 その他の文章

朝比奈隆の快演で気分爽快(浦澄彬の批評アーカイブ1)

※ここでは、過去の批評を、シリーズで掲載していきます。


『朝比奈隆の快演で気分爽快(2000.10.20.)』

昨夜、大阪フェスティバル・ホールで行われた朝比奈隆指揮の大阪フィルハーモニーの
演奏会に行ってきた。曲目はブラームス・プロで、前半が伊原直子(アルト)をソリストに迎えて
の『アルト・ラプソディ』、後半が交響曲第2番二長調。
  
『アルト・ラプソディ』はいささか気合の入らない凡演で、その責任は大フィル合唱団にある。
透明感に欠け、反応の鈍いコーラスにがっかりさせられた。
  
だが、『交響曲第2番』、これは掛け値なしの名演だった。
この日の朝比奈氏は、体調もよ
さそうで、第1楽章から早いテンポでぐいぐい押していく。まるで20代の指揮者のような溌剌と
した音がオーケストラから響く。特に第4楽章には圧倒された。大変速いテンポで一貫して突き
進み、コーダの直前、トランペットの音を朝比奈氏のタクトが一瞬ぴたりと停め、そこで全てが
一体と化して、一気にフィナーレへなだれ込んだ。まさしく名人芸。会場はブラボーの嵐。振り
終えて、朝比奈氏も晴れやかにたどたどしいお辞儀を繰り返していた。
  
この日、激しい雨にもかかわらず客席はほぼ満席だった。会場は、老夫婦が目立ち、まる
で、かつての自分たちの青春を振り返ろうとして朝比奈氏の演奏を聴きに集まったかのよう
だった。
  
朝比奈氏の、立っているだけで歴史そのものといった風格は、この日本でもはや他には見
ることのできなくなったものだ。だからこそ、朝比奈氏のコンサートには老若男女を問わず、大勢
の人が集まり、その演奏に熱狂するのだ。
  
90歳を過ぎて、ますますエネルギッシュな演奏を続ける朝比奈氏を見ていると、人生は捨て
たものではないという気がしてくる。若い者が負けてはいられない。