キングコング | 作家・土居豊の批評 その他の文章

キングコング

これこそ、映画でしかできないこと。魔法ネタも使わず、SFテクノロジーも使わないで、生身の人間が神話世界に足を踏み入れた稀有の時間を描き出す。現実世界とファンタジーが接触する一瞬。
今にして思えば、ジョン・ギラーミンのリメイク版は、いわば、映画の中にでてくる映画監督がやろうとしたことを実際にやってしまった、ということなのだ。神秘を単なるスペクタクルに矮小化してしまったのだ。
3時間の長丁場だが、このピーター・ジャクソン監督は、『ロード・オブ・ザ・リングス』でもそうだったが、大長編の醍醐味を味あわせてくれる。このキングコングでも、細部をじっくり描きこむうち、作品世界のリアリティーが確立されてしまう。そうなれば、あとはキングコングだろうが恐竜だろうが、何が出てきても違和感がない。
こういうのを観ると、欧米の大長編小説の持つ魅力を思い出す。ああいう長い長い小説を読み出すと、その作品世界にはまりこんでしまって、そこにどっぷり浸っているあいだ、現実を忘れていられる。明らかに、この監督は、そういう長編のセンスを持っている。
そうでなければ、『ロード・オブ・ザ・リングス』を映画化しようなんて、正気では考えられなかったろう。
12月21日