ローマよ、ローマ | 作家・土居豊の批評 その他の文章

ローマよ、ローマ

今さらながら、塩野七生さんの『ローマ人の物語』を読んでいる。めっぽう面白い。ちょうど、カエサルの「ルビコン以後」に入ったところ。結末がわかっていても、ひっぱられる。
ところで、ギリシャ・ローマ文明は、ヨーロッパ文明の源泉には違いないが、ローマ史をたどっていくと、多神教の社会の持つ融通性がはっきり現れていて興味深い。考えてみれば、キリスト教を公認するまでのローマ人は、実にたくみに現実を処理して難問を乗り越えてきたようである。
共和制ローマのころの人から見れば、ユダヤの一神教など、なんと頑迷な田舎くさいものに見えただろうか。
キリスト教がヨーロッパの文明を支配して以来2000年、おかげで世界はどれほど迷惑をこうむっただろう。日本も、16世紀のポルトガルの宣教師たちによって、あやうく植民地化されるところだった。よくぞ戦国大名たちが武力を誇示して、白人たちを追い出してくれたものだ。祖先に感謝しなければならない。
今になって、つくづく鎖国の先見性が理解できる。それも、完全な孤立ではなく、細々とではあっても巧みに世界情勢を吸収しつつ、自国の独立を維持してきたのだ。江戸300年は、日本人の宝といっていい。
惜しむらくは、明治維新以来、欧化を急ぎすぎたことか。換骨奪胎して吸収したはずの文明に、いつの間にかミイラ取りがミイラ状態で、知らず知らず洗脳されてしまったらしい。多神教の文明感覚を、今からでも思い出すことは可能だろうか。