音楽のおもしろさ | 作家・土居豊の批評 その他の文章

音楽のおもしろさ

今話題の指揮者の演奏会。
会場は、普通のクラシック好きよりも、その人のファンが多いような雰囲気。何しろ、プログラムに、「曲間の拍手はご遠慮ください」などと注意書きしてある。前に拍手攻撃で困ったからだろう。
曲目は、ブラームスのヴァイオリンコンチェルトと交響曲第1番。オーケストラは関西では定評のある団体。ソリストには、世界的なヴァイオリニスト。これでこけたら、よっぽどだ。
ところが、そこが音楽の難しさ、みごとにこけたのだ。
もちろん、会場を埋めたファンは、盛大な拍手で、アンコールもちゃんとやった。
しかし、曲が終わったあとの、指揮者の硬い表情と、コンサートマスターとの形だけの握手が、全てを物語る。普通、この曲で、演奏がうまくいったら、ソロをとった奏者を立たせたりするが、それも一切なかった。
別に、それで何ら構わない。音楽は一回一回が勝負の、瞬間芸術で、失敗もある。それだからこそ、わざわざこのテクノロジー全盛の時代に、アナクロなコンサートなどという催しに人が集まるのだ。CDを聴くのとは、根本的に異なる、ただ一度の体験を求めているのだ。
だから、失敗したらしたで、それでよいだろう。次はどうなるか、ますます楽しみだから。
ファンがあんまりかばうものではないと思う。そんなことをしていると、その音楽家は、いつしか人気にスポイルされてしまい、伸びなくなるかもしれない。辛口の評価も、ファンとしては必要なのではなかろうか。
書きながら、これは何だか自分に言いきかせているような気になってきた。小説だって同じことだ。
7月14日