電車の走らない線路 | 作家・土居豊の批評 その他の文章

電車の走らない線路

JR宝塚線は、いまだ不通のままで、その線路の横を車で走ると、駅に回送電車がポツンと停まっている。線路は気のせいか、少しひんやりして見える。
幼いころ、阪急沿線に住んでいて、よくストライキがあった。その日はもちろん、電車は走らない。友達と誘い合って、線路に侵入し、いつもは触れない鉄のレールの感触に心踊らせた。
駅のそばで、線路を歩いたり石を拾ったりして遊んでいたら、遠くのほうに、ぼんやりと列車の姿が浮かび上がってきた。どうやらストライキは終わったらしい。急いで駅に戻って、電車がやってくるのを待った。そんなことを思い出していると、もはや帰らないのどかな日々が、とてもいとおしい。
JRがまだ国鉄だったころ、なにかのイベントで、東海道線にSLを走らせたことがあった。沿線に大勢の人が集まって見物していた。自分がSLを見たそのすぐあとに、隣町の駅で、子供が線路に入って、SLを見ようと近づきすぎて、轢かれて死んだ。
よくも悪くも、線路は子供の遊び場だった。
5月19日