『響け!ユーフォニアム』と『ハルチカ』〜吹奏楽アニメを考える
『響け!ユーフォニアム』と『ハルチカ』〜吹奏楽アニメを考える
今年、吹奏楽アニメのすばらしい作品を2つ観ることができて、吹奏楽部出身者としては本当に嬉しい体験だった。
かつて、吹奏楽はアニメやドラマ、映画の題材として、あまりに人数が多いことと、楽器の表現の難しさ、などから敬遠されていた。流れが変わったのは、吹奏楽ものではないが、指揮者とピアニストの青春を描いた『のだめカンタービレ』からだろうと思う。
昨今では、映画にドラマにアニメと、吹奏楽ものがどんどん登場し、隔世の感がある。
以下、今年の2大吹奏楽アニメを比較して語りたい。
最初に断っておくが、筆者は80年代を学生吹奏楽で過ごした世代だ。だから全国吹奏楽コンクールが今のような加熱ぶりをみせる以前の、かなり牧歌的な吹奏楽部員だった。その原体験があるため、全国コンクール至上主義の風潮には苦々しい思いを抱いている。
その上で、まず、『響け!ユーフォニアム2』のラストは、実に見事だった。タイトルをそうやって回収するとは!という驚きがあった。
だが、そこで前回のパート1と今回の2を通してみた場合、どうしても違和感が最後まで残った。はっきりいって、副部長の田中あすかが主役の方がよかったと思うのだ。
(以下、あまりに完璧な作品すぎて誰も書かなさそうな本作へのツッコミを、あえて書く。ネタバレを含むので、みていない方はご注意を)
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もちろん、原作があるのでしょうがないのだが、最初から、1年生の久美子が狂言回しになるのは不自然に感じていた。この物語が全国コンクールを目指す青春群像である以上、必然的に主役はあすかと3年生たち、そして2年生たちであるはずだからだ。久美子たち1年生は、この段階では脇役に回らざるを得ない。
それなのに、この物語で、1年生の久美子を語り役にしたために、コンクールや日常の部活動をめぐる多くの肝心な物語が、詳細不明なままで消化不良に終わっている。
本当なら、1年生の久美子たちの物語は、このあとの第3部?から始まるはすだ。パート2のここまでは、3年生&2年生の平和な部活世界にいきなり闖入してきた腕利き教師との、部活動の主導権を争うせめぎ合いの物語だったはずなのだ。
だから、もしあすかが主役なら、今回は未消化で語られなかった多くの挿話の細部が明らかになっていただろう。特に、あすかの家族関係は、全国コンクールでの結果に直結する因縁なのだから、なおさらだ。もしあすかが主役の構成なら、最初からコンクールの結果まで、物語が首尾一貫するだろう。
ところで、吹奏楽部のコンクールをめぐる物語は、学年進行のパターンで描くならば、古くは漫画『キャプテン』などに代表される野球ものと同じ構図で語れるのだ。『響け!』も、構成の上では、吹奏楽部を引っ張る部長&副部長の世代交代物語になっているのだから、『キャプテン』で歴代の主将を主人公にしたのと同じ構成で作れただろう。吹奏楽部の物語と部員個人の物語がうまくリンクするには、部活の中心人物を主役にするのが自然だが、その点、久美子が主役では展開に無理があったといえる。もっとも、原作の展開が未完なのだから、アニメ化するにあたって、物語の大きな変更は無理だったのもわかる。
いずれにしても、筆者も本作の3を待望している。アニメでも実写でも、ここまで吹奏楽を緻密に描いた作品は、かつてなかった。
さて、
吹奏楽アニメとして、今年、『響け!』と『ハルチカ』が前後して放映されたが、筆者としては『ハルチカ』に軍配を上げたい。
その差は何か? 吹奏楽部の成り立ちを、『ハルチカ』では、楽器編成と指揮者の存在との絶妙なバランスで描いていたからだ。なにしろ、今の吹奏楽部は、コンクールというハードルをいかに越えるか?が大問題なのだ。そこを、本作では小編成の部員を集めるところから物語を始めて、徐々にメンバーが成長していくという、見事な構成でクリアしている。
特に、本作での先生の扱いは、『響け!』の場合より自然に描かれている。生徒たちと指導者としての先生の、存在感のバランスがちょうどよく、あくまで脇役を固めているという描き方に納得がいった。
『響け!』のような大編成バンドを描くには、やはり指導者としての先生を大きくクローズアップした物語にならざるを得ない。それに対して『ハルチカ』は、あくまで生徒の自発性が物語を牽引していて、青春物語として一歩リードしているのだ。
両作とも、キャラの魅力は甲乙つかないのだが、作劇の巧みさが完成度の差となったといえる。
もちろん、『ハルチカ』の場合、青春ミステリーという原作の都合上、1話ごとに謎解きが物語の大きな要素となっている。しかも、音楽ミステリーとして、音楽を用いた謎解きが多く描かれ、その点でも音楽ファンをうならせる。
というわけで、筆者はアニメ『ハルチカ』2を待望している。
最後に、筆者はかつて、吹奏楽ものの映像作品や小説、漫画をピックアップした雑誌記事の特集を担当したことがある。
※
この誌面で自分が挙げた吹奏楽ものの作品に負けじと、筆者自身も、吹奏楽ものの小説を書き続けている。
来年は、『響け!』と『ハルチカ』に負けない吹奏楽小説を上梓するつもりだ。
※土居豊のデビュー小説は、音楽家の青春を描いた『トリオ・ソナタ』
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※指揮者の藤岡幸夫さんです。ご自身のファンサイトに、土居豊の小説『トリオ・ソナタ』のご感想をアップしてくださいました。
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http://www.fujioka-sachio.com/album/album.htm
本作は指揮者を主人公にした青春小説ですが、本職の指揮者にリアルだと褒めていただき、お墨付きを得た思いです。
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