なぜ、吹奏楽日本一の市音と淀工を持つ大阪市を吹奏楽の聖地にしようという発想がないのか? | 作家・土居豊の批評 その他の文章

なぜ、吹奏楽日本一の市音と淀工を持つ大阪市を吹奏楽の聖地にしようという発想がないのか?

なぜ、吹奏楽日本一の市音と淀工を持つ大阪市を吹奏楽の聖地にしようという発想がないのか?

【橋下市長、市音楽団員の配転認めず「分限免職」 (読売新聞 04月06日)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120405-OYT1T01403.htm

大阪市の橋下徹市長は5日、市が同日発表した施策・事業の見直し試案で「2013年度に廃止」とされた市音楽団の音楽士36人の処遇について「単純に事務職に配置転換するのは、これからの時代、通用しない。仕事がないなら、分限(免職)だ」と述べた。
 市改革プロジェクトチームの試案では、音楽団を「行政としては不要」としつつ、市が正職員として採用してきたことから、「配置転換先を検討」としていたが、橋下市長は「分限(免職)になる前に自分たちでお客さんを探し、メシを食っていけばいい」と述べ、配置転換を認めない意向を示した。
 市音楽団は1923年に発足。国内唯一の自治体直営の吹奏楽団で、市公式行事での演奏や有料公演などを行っている。市は公演収入などを差し引いた運営経費や人件費として年約4億3000万円(2010年度)を負担している。】



これはおかしい!
なぜ、普通に配置転換しないのか?
もし本人が、あくまで演奏家として独立するなら、それもよし、長年培った経験と技量を活かして、音楽指導、あるいは芸術マネージメントなど、大阪市の他の部署で仕事ができれば、それに越したことはない。
先日の、煙草吸った地下鉄助役のクビといい、これでは、市長の好き嫌いで職員の人事に介入しているようにしかみえない。

そもそも、大阪市音楽団というのは、日本のプロ吹奏楽団として1、2を争う実力楽団だ。
今、日本中の中学高校で、吹奏楽部のない学校の方が少ないだろう。吹奏楽の甲子園と呼ばれる、全国吹奏楽コンクールは、日本中の吹奏楽ファンの憧れだ。
考えてもみてほしい。
スポーツであれ、音楽、芸術であれ、学生たちがアマチュアとして、学校で取り組むのは、教育的な効果が見込めるという実績があるからだ。
その学生たちの活動は、単独で成り立つわけではない。
スポーツにそれぞれ、プロや、世界大会があるように、音楽にも、それぞれの目標たるべきプロの音楽活動があるのだ。
吹奏楽でいえば、日本なら東京佼成ウィンドオーケストラ、シエナウィンドオーケストラ、そして我らが大阪市音楽団なのだ。
世界中の吹奏楽ファンが愛聴し、演奏されている吹奏楽の新曲を、大阪市音楽団は数多く初演してきた。
日本で最初のプロ吹奏楽団でもあり、古くは、故・朝比奈隆も指揮したのだ。
そういう、歴史と伝統、実力と知名度を兼ね備えた楽団を、大阪市が持っているということが、どれほど世界中に自慢の種となるだろうか。
大阪を、世界中の吹奏楽愛好家、音楽を学ぶ学生たちの、憧れの地にしよう、というような前向きの発想が、なぜできないのだろう?
いくら道頓堀にプールを作っても、それはほんの一時の話題であり、大阪にカジノを誘致しても、世界中に似たような場所はたくさんある。
吹奏楽の聖地、というコンセプトの方が、よっぽど子どもたちに夢を与えると思うのだ。
しかし、それも、「民意」とやらで、大阪には吹奏楽はいらない、ということなら、それもやむをえない。
一度、壊してしまったら、二度と再びつくれない価値、というものが、わからないのなら、どうしようもない。
いっておくが、大阪府が誇る、吹奏楽コンクール常勝校の淀川工科高校吹奏楽部も、行政のバックアップがあって初めて出来たものだ。それは、府民の血税を投入しているものだが、「大阪に淀工あり」と日本中の吹奏楽愛好家、学生たちが知っているというのは、大阪の誇りではないのか?

ともあれ、いくら楽団を解散するとしても、もともと市の職員である楽団員をクビにして、自力で仕事を探せ、というのは、市長の個人的感情だとしか思えない。ちなみに、公務員は、終身雇用が前提なので、失業手当はない。クビになったその日から、生活に困るのだ。
なにか不祥事を起こしたのならともかく、これまで長年、大阪の名声を高めてきた音楽家たちを、石を投げて追い払うような行為も、「民意」とやらは支持するのだろうか?


※参考
スパーク『宇宙の音楽 世界初演ライヴ』大阪市音楽団
http://www.amazon.co.jp/dp/B000BKTDPM

ヴァンデルロースト&大阪市音楽団 / 『フラッシング・ウインズ』
http://www.hmv.co.jp/product/detail/1227434

『ザ・メモリアルライヴ 朝比奈隆 大阪市音楽団を振る』
http://www.amazon.co.jp/dp/B0000TCLLC

『青春の軌跡 大阪府立淀川工業高等学校吹奏楽部』
http://www.amazon.co.jp/dp/B00005EZ7E