子ども手当 | 作家・土居豊の批評 その他の文章

子ども手当

「子ども手当」に反対の人は?

【http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20091012AT3S1100X11102009.html
(日経新聞10月12日)
平野博文官房長官は11日、民主党が衆院選マニフェストに明記した月2万6000円(初年度は半額)の子ども手当について「6月後半くらいにはできるような制度設計にしないといけない」と述べ、2010年6月に支給を始める方針を示した。
(中略)子ども手当関連法案の施行と同時に児童手当法は廃止する。2、6、10月の年3回支給する児童手当と同じ支給時期ならば、自治体の事務負担も現状とあまり変わらないとみられる。来年夏の参院選前に支給を始める思惑もありそうだ。】

子ども手当のニュースが流れるたびに、ネット上では、賛否をめぐって激論になっています。もっとも、圧倒的に反対意見が多く、賛成意見は封殺されているような印象を受けます。
子ども手当は、民主党の選挙対策の目玉の一つだけあって、実現に力が入っているようです。ネックとなる財源確保のやりくりに四苦八苦しながらも、かなり実現が見えてきたような感じです。
さて、この子ども手当について、育児世代や、これから子どもをつくるはずの世代は、どう考えているのでしょうか。
もちろん、もらえるならありがたいし、継続できればその方がいいに決まっています。しかし、一方、現金でもらうより、保育環境の整備を優先してほしい、という立場もあります。あるいは、子ども手当のために配偶者控除や扶養控除がなくなるなら、本末転倒だという意見もあります。
個人的な感想ですが、子ども手当に賛成の人も、反対の人も、ネット上で意見を戦わせている方々の多くは、現状を知らずに、ただ机上の空論を楽しんでいるように感じます。
まず第1に、「育児には金がかかる」というのが大前提です。
第2に、「収入制限は、あるにこしたことはない」ということもいえます。
第3に、「少子化対策と、育児支援は、別の土俵で」という視点をもってほしいということです。
以下、考えを述べてみます。
その1。
育児にどれだけお金がかかるかは、生涯収入の差を、育児の有無で比較すれば、一目瞭然です。
育児に厖大な金銭的リスクが必要となる今の日本の社会は、必然的に少子化を目指しているとしか思えません。少子化問題は、当事者の意識やモラル、教育制度などの枝葉の問題ではなく、国としてのあり方から問い直さなくてはならない問題です。
だから、今回の子ども手当は、少子化を食い止める手段にはおそらくならないだろう、と私は考えます。いわば、焼け石に水、です。それでも、育児世帯には、必要な手当だと考えます。
その2。
子ども手当は、育児支援が目的なら、収入制限はあった方が公平だと思います。なぜなら、収入の多い世帯なら、子ども手当分ぐらいのお金は、家計に十分織り込みずみだからです。反対に、低収入の育児世帯にとっては、子ども手当のお金は、 喉から手がでるほどに欲しい金額です。それがあれば、毎月の子どもの医療費が助かる、とか、あきらめていた水泳教室に行かせてやれる、とか、そういった切実なお金なのです。
しかし、収入制限をした場合、おそらく、ぎりぎりで制限にひっかかる世帯がかなり多いだろう、というのも考えられます。そういう中間層の場合、背伸びした家計のやりくりをして、育児の支出をまかなっていることが考えられますので、子ども手当がもらえず、増税になってしまう場合、以前より家計は苦しくなり、育児にまわす金額が減ることもありえます。
ここは、とても悩ましい問題だと思います。
その3。
「少子化対策と、育児支援は、別の土俵で」ということを、あまりどなたも考えないようです。「育児支援」は、現に今、そこにいる子どもたちと、育児世帯を助けることです。その結果、育児環境がよくなれば、次の世代が、それをみて「子どもをもう一人」と考えるかもしれません。そうなれば、結果的に、少子化対策になった、といえます。
少子化対策は、あくまで結果であり、現在の子育て環境を劣悪なまま放置しておけば、いくら保育施設を整備しても、次の世代は、上の世代の苦労をみていますので、そうやすやすとは「もう一人」とは考えないでしょう。
ましてや、次に述べるように、日本の社会は、いつまでたっても、育児に冷たい社会です。不況の中で育って来た今の育児世帯や、次の世代は、いくら保育環境が整備されつつあるといっても、肝心の企業や職場の意識が、育児を排除しようとすることを、骨身にしみて知っています。
結局は、日本の社会は、育児に冷たいままなのです。そのことは、今回の「子ども手当」騒動で、はっきりとわかります。誰も、自分の子どもでもないのに、税金を使って支援するのは嫌なのです。「子ども手当は不公平だ」という意見が多いのは、その露骨なあらわれです。
しかし、「不公平だ」という意見は、将来の日本の社会を、今の子どもたち、そしてこれから生まれる子どもたちが支えるのだ、という当たり前のことを、わかっていないから言えるのでしょう。どっちみち、子どもが減り続ければ、社会を支える将来の国民一人一人の負担は増すばかりです。
少子化でも構わない、という意見に至っては、将来の子どもたちがどうなろうと、知ったことではない、という考えだとしか思えません。
さて、次に、「子ども手当」以前の問題、である育児支援の劣悪な現状を取り上げます。
(続く)