2025年4月5日(土)18時開演 サントリーホール 

 

■ 東京交響楽団第729回定期演奏会 ■

ブルックナー/交響曲第8番ハ短調WAB108(第1稿/ノヴァーク版)

指揮:ジョナサン・ノット

演奏:東京交響楽団

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 音楽監督であるノット氏が東京交響楽団との最終シーズンを迎えている。残すところ定期公演は4月、7月、9月、11月のマーラー9番、そして特別公演として12月のベートーヴェン第9番までです。

 1回、1回のコンサートがとても大事になります。

 つくづく本当に良い指揮者だと感じます。オーケストラビルダーとしても優れていますが、曲目の選定もとても素晴らしいです。

 そして、数々の大曲をベストの状況で聴衆に展開し続けてくれました。

 もっと何かやってくれそうと思う間もなくこのオーケストラを去ることになります。

 個人的にはショスタコーヴィッチの大曲とオペラをもっとやってもらいたかったです。

 さらに言えば、2サイクル目のマーラーもこの指揮者で聴きたかったです。

 

 この日はブルックナーの交響曲第8番でした。第7番同様、以前にもこの曲は演奏会で取り上げてくれています。ただ前回は第1稿ではなかったです。昨年ルイージさんでも聴きましたが、90分を越える長大な版をまとも聴けると思いませんでした。

この版はブルックナーのいろいろな取り組みも聞けます。

 「まとまっていない」との批判もあるようですが、僕は結構この第1稿のくどさが好きです。

 ルイージの時もしっかり楽しませてもらいましたが、第1楽章も第4楽章も御馳走です。

 特に第3楽章のシンバル部分、この日の6発は「3発+3発」という展開でルイージの扱いとも異なっていました。シンバルの出番はここだけでちょっとかわいそうなのですけどね

 

 オーケストラもうまかったです。コンマスに先般の演奏会ではお休みされたグレブ・ニキティンが今回は座られ、加えて小林さんもとなりに座る2人態勢でのぞまれました。弦の厚みが非常にありました。木管、金管とも万全に演奏されました。

 以前からブルックナーの音楽は好きでしたが意識的に重い解釈をする指揮者の演奏を聴き続けていた(ギュンター・ヴァントさんが好きなので)のですが、ノットさんのすっきりとまとめ上げたブルックナーを聴いたことで、自分のブルックナー像も変化したように思います。さらによく言われることですが、「ブルックナーおたく」は「クラおたのおっさん」イメージがありましたが、近年若い女性客も苦虫を噛んだ聴き方でなく、モーツァルトを気軽に聞く感覚でコンサートホールを埋めるようになり、ブルックナーの独特の先入観もなくなってきていると感じます。

 

 ノットさんが音楽監督になり、ブルックナーの曲をまんべんなく演奏してくれており、僕は第1番、第2番、第3番、第5番、第7番、第8番、第9番を聴いています。サントリー定期の会員なので、オペラシティのものはほとんど聴かないのでもしかして全曲演奏されたのかもしれません。第8番は10年前の2016年にも演奏されていますが、その時は第1稿ではなかったです。

 同じ指揮者で楽譜を変更することもあるのですね。マゼールはよくやりましたけどね。

 普通は、自分の手あかのついた楽譜を何度も使い、より深い解釈を求めるようい思っていたのですが、この指揮者はそうではないようで、非常に柔軟な方なのでしょうね。

 

 日本人にはブルックナーと聞くと、実演ではチェリビダッケ、スクロバチェフスキ、ティーレマン、CDだとそれにクレンペラーや上記のヴァント、あとはカラヤンやショルティといった「頑固なブルックナー」「巨匠ブルックナー」が本筋となっていました。精神論の系譜がブルックナーの真髄とされており、それを否定する気持ちはもちろんないのですが、それだけではないと以前から思っていました。しかし、選択の余地がなかったとも思っていますが、ノット解釈の一連のブルックナーを聴いて、それだけじゃないなということが感じられました。

 さらにこれらを支持するファンが僕以外にもたくさんいることが、コンサートホールの様子で判断できうれしい気持ちになりました。

 

 ノットさんが退任され、ロレンツォ・ビィオッティさんになってもブルックナーをしっかり扱っていただきたいと思います。ビィオッティはマーラーを得意にしていますからこのチクルスは間違いなく実現しますが、ブルックナーもよろしくお願いします。

 

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