10月25日(金) 19時開演 NHKホール

第2021回定期公演Cプログラム

シューベルト/交響曲 第7番 ロ短調 D. 759「未完成」

シューベルト/交響曲 第8番 ハ長調 D. 944「ザ・グレート」

指揮:ヘルベルト・ブロムシュテット

演奏:NHK交響楽団

 

 先にブラームスの交響曲第4番の記事も取り上げたブロムシュテットさんですが、このマエストロの音楽づくりはN響の過去の名誉指揮者である、ウォルフガング・サヴァリッシュ、ホルスト・シュタイン、オトマール・スゥットナーと同じベクトルで考えてはいけないとつくづく思いました。

 音楽づくりはぶれず、真摯に音楽に向かわれているのは事実なのですが、音楽をドイツ精神論で作り上げているのではなく、楽譜を忠実に再現することに傾注されていることがよくわかります。

 もちろん北ドイツ放送交響楽団、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団、バンベルク交響楽団、ドレスデンシュターツカペレとも深い関わりを有していることから、がちがちのドイツ的重厚な(こういう表現が正しいかどうかは別として)音楽づくりをしている錯覚にとらわれますが、まるでそれは異なっています。

 ドイツ音楽といえば、20世紀にはフルトヴェングラーが楽壇の中心として君臨しており、これに連なる指揮者の系譜がドイツ音楽の主流と評されます。

 オーソドックスにいえば、ベームにわたり、バレンボイム、ティーレマンといった指揮者がこの流れに連なるというのが一般的なイメージではないでしょうか。異色ですがチェリビダッケも含まれるかもしれません。

 ベートーヴェン、シューベルト、ブルックナーを重厚にあるいは厳格に演奏しなくてはならないという固定観念みたいなところがあります。

 

 その点でいうと、ブロムシュテットさんはレパートリー的にはこれらの音楽家をすべて網羅しており、誰もその音楽を否定しません。

 今年亡くなられた小澤征爾が振る同じ作曲家の音楽は2000年ごろまでは精神がないと一蹴されていましたが、ブロムシュテットさんを否定的に言う人を聞きません。

 

 実際、ベルリンフィルの楽団員が小澤さんのブラームスを評して「我々の演奏するブラームスとは異なる」とは発言したことがあります。これがいつの時期のことを指しているかはわかりません。一方で1983年6月にこのオーケストラを指揮した時のことを当時のある評論家が「フルトヴェングラーのように緻密な演奏だった」とも発言しています。

 小澤さんのブラームスで必ず問題になるのは交響曲第1番の第4楽章コーダの時のティンパニーにあります。

 古い米国スタイルではトスカニーニやミュンシュが派手にやらかしており、ボストン交響楽団ではティンパニー奏者がミュンシュ・スタイルに固執し小澤さんは従わざる得なかったようである時期までその演奏を踏襲していましたが、ある時期からは楽譜どおりでした。

 このことなのかほかのことなのかはわかりません。

 

 さてブロムシュテットさんですが、米国生まれのスウェーデン人でもともとドイツとは何のゆかりもありません。

 若い時代にドイツのオーケストラで数多くの演奏をしてきていますが、マサチューセッツ生まれの彼はジュリアードで学習しており、生い立ちはバーンスタインと変わりないと思います。なによりも彼はバーンスタインに師事しタングルウッドでクーセヴィツキー賞も獲得しています。

 先の小澤さんとは経歴も含め兄弟弟子みたいなものではないでようか。サンフランシスコ交響楽団の音楽監督も小澤さんの10年後に就任しています。

 

 ルイージ、古くはクリュイタンスのように同様ドイツの癖をもたないドイツ音楽の得意な指揮者であると思います。

 

 本題のシューベルトですが、1曲目の第7番は端正ではあるけど深みのある音楽を展開しました。この曲は音楽そのものが完成されていて、変わった演奏を聴くことはまずありません。安心感のあるシンフォニーです。一時期退屈に思うこともあった曲ですが、非常にシンプルに美しい旋律を奏でます。ブロムシュテット翁もバランスを整え節度のある音作りをされました。

 

 最後に8番です。7番とは異なり、同曲は指揮者によって表現を変えることが多い曲です。特に第1楽章と第4楽章は劇的にテンポを動かす指揮者もいらっしゃいます。

 ここでの演奏もこのマエストロらしくごつごつとさせず、音を丁寧に優しく、バランスよく流していました。先の演奏会のブラームス同様、「中庸の美」に徹した演奏でした。

 若い指揮者が直球でやる演奏を、全てを知り尽くしたマエストロが再現することに意味があると思いました。

 これも以前に書いたことがあるのですが故朝比奈隆さんが「(ベートーヴェンを)演奏するのに、若いときにいろいろととやってみたが、結局譜面通りきちんと演奏することが最も良いと気づいた」と晩年おしゃっていました。

 ブロムシュテットさんの演奏はまさにそこに行きついたものなんだと感じずにはいられません。

 

 もう100が見える年齢になられ、健康をどこまで維持でき、飛行機に乗って日本においでいただけるのだろうかという状況になっていらっしゃいます。

 来年はメンデルスゾーンの「賛歌」を予定されています。「まじですか?」という思いでいっぱいです。是非聞きたいです。絶対聞きたいです。毎回「宝物」の演奏を続けてくださいます。