2023年12月16日(土)18時開演 NHKホール

2023年12月17日(日)14時開演 NHKホール

<第2000回 定期公演 Aプログラム>

 

マーラー/交響曲第8番変ホ長調 「一千人の交響曲」(ファン投票選出曲)

指揮:ファビオ・ルイージ

ソプラノ:ジャクリン・ワーグナー※(変更)

ソプラノ:ヴァレンティーナ・ファルカシュ

ソプラノ:三宅理恵

アルト:オレシア・ペトロヴァ

テノール:ミヒャエル・シャーデ

バリトン:ルーク・ストリフ

バス:ダーヴィッド・シュテフェンス

演奏:NHK交響楽団

合唱:新国立劇場合唱団

児童合唱:NHK東京児童合唱団

 

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 待望のマーラー演奏を聴きました。マーラーの8番はクラシック・ファンにとって夢の演奏会です。

 楽壇全体では、非常に稀にしか演奏されない同曲なのですが、財力と「日本クラシック音楽会の雄(ゆう)」という自負心と責任感からなのかNHK交響楽団においてはそれなりに演奏機会があります。

 近年では、2011年に「セクハラ・名誉音楽監督(N響はこの称号をはく奪しなさいよ)」シャルル・デュトワによる第1715回定期公演、さらに2016年にはパーヴォ・ヤルヴィ氏によるN響90周年特別演奏会によりそれぞれ素晴らしい演奏が展開されています。

 

 この曲について、「クラシックおたく」の自慢の中に「マーラーの8番を〇回実演で聴いた」というのがよくあります。

 プロの評論家や音楽学者は聴くことが、その後のお仕事に必然的に関係しますが、単なる趣味の中では、多分、この曲以外に、シェーンベルクの「グレの歌」を演奏会で聴いたことがある(さすがにこの曲は何回と言えるほど頻繁にできません)とか、同様にショスタコ-ビィチのオラトリオ「森の歌」を聴いたことがある、メシアンの「アッシジ(島)の聖フランチェスコ」、ブリテンの「戦争レクイエム」を聴いたことがあるあたりでしょうか。

 コストとニーズの関係でこれらの曲はそう頻繁にできないのが実態です。それでなくてもオーケストラは財団経営をしていますが、どこも寄付金を募っていてなかなか公演プログラムに入れにくいものとなっています。

 

 今回、①マーラーの交響曲第8番「一千人の交響曲」、②フランツ・シュミットのオラトリオ「7つの封印の書」、③シューマンのオラトリオ「楽園とペリ」の3つから選択でしたが、主催者はマーラーやるつもりだったのでしょうね。ファン投票で他の2曲が選ばれる可能性はゼロに近いですよ。他の2曲は「当て馬」感いっぱいです。仮に、上にも掲載したシェーンベルクの「グレの歌」(ルイージのレパートリーにあるかわかりませんが)が選択に含まれていたら、僕は「グレの歌」に投票していますけどね。

 ルイージは、マーラーの8番を今までに6~7回やっているとあるインタビューで答えられていました。結構やっていますよね。

 

 かつて井上道義さんがショスタコーヴィチ・プロジェクト企画して集客に御苦労され、私財を投げうって運営補填したように聞いています。その井上さんも引退となりますが、ショスタコーヴィチは引退後も指揮されるみたいですね。

 2月N響定期には「バビ・ヤール」は是非行きたいです。日比谷での演奏も聴かせていただき、後日、ある機会でマエストロとお話できる栄に浴したとき、日比谷の話をしたら、「聞いてくれたの、ありがとう。この曲とても気に入ってるんですよ」とおしゃっていました。

 

 いくら良い曲、指揮者がやりたい曲でも営業的に合わなければ楽団としては簡単に演奏会にできませんよね。

 ただ、今回のマーラーは前評判が高かったですね。ルイージさんは首席指揮者(この名称の意味はわかりませんけど)就任直後のヴェルディの「レクイエム」で派手なお披露目を飾ったせいで常に聴衆の支持を受けています。

 そのバロメーターとして公演終演後の指揮者の呼び出しです。

 

 これを、年中行事として定着させたのは東京交響楽団の音楽監督ジョナサン・ノット氏です。というか東京交響楽団の主に定期会員(僕もそこに含まれます)の皆さんと言った方が正確な表現でしょうか。

 僕の知るかつてのN響と言えば、演奏会が終わったら、団員が無表情に帰っていく姿でしたが、パーヴォもそうですがルイージさんの呼び出しは凄いです。毎回、演奏会後お披露目がないと客が帰らなくなりました。近年、N響の団員の皆さんが終演後表情を出されるようになったことは、とても良いことだと思っています。聴衆が指揮者を称えるのは、オーケストラの名演奏があっての賜物ですから団員の皆様も誇りにしていただきたいと思います。

 

 在京オーケストラではこのような行動が増えているのではないでしょうか。10年前と比較すると、いたる公演で指揮者の呼び出しが増加したように思います。あらゆる演奏会で行われるような形骸化することは問題ですが、オーケストラ側にとっても著名な指揮者を海外から再依頼するのに、日本の音楽ファンのこういう行動はダシにできるだろうというとしてプラスの評価ができると思います。

 

 僕は、最近NHKの定期公演をずっと追いかけているわけでなくスポット参入客でいます。そのため、今回の2公演はチケット確保に苦労しました。一般販売日に電話購入(ネット購入も可能だったことを知らなかった)のため、土曜日公演しか買えずに、日曜日公演は予約のみのお客が購入期限の3日間で買いそびれて放流されたチケットをかろうじて手に入れることができ、希望の2日間に向かうことができました。

 

 チケットを放流してくれたお客さんどうもありがとうございます!

 

 演奏ですが、非常にスリリングでした。かつてインバルが都響の演奏したときも結構頑張って指揮していましたが、デュトワは平然とまたひょうひょうと同曲を指揮していました。出てくる音は素晴らしかったです。セクハラくそ爺ですけど。

 

 いずれテレビとFMで放映されますが、スリリングさの意味を理解していただけると思います。特にテレビ収録されていない、2日目の出来は懇親の名演だったように思います。

 冒頭からやや早めテンポで音が展開していきます。手元の時計をしっかり見ていませんが、2日間とも第1部は23分はかかっていないのではないかと思われます。第2部は朗々また表現を付けてと演奏していたので57分程度だったと思います。

 金管とりわけトランペットがやっちゃわないかといつもヒヤヒヤしているのですが、菊本さん、長谷川さんをはじめ皆さん本当に頑張って下さいました。トランペットはアタッカーですのでミスると目立ちますからね。初日、第1部の合唱に入る寸前はスレスレのところもあったのですが、2日目はさらに研ぎ澄まされた見事な演奏でした。

 特に第2部の終局のトランペットが鳴く部分は良かったです。

 

 各団員の緊張感の維持も大変に立派で、妥協のない音出しを全体でやっていました。

 コンサートマスターは篠崎さんがつとめられていました。郷古さんがとなりに座っていましたね。いま、N響のコンサートマスターってどうなっているのでしょうかね。篠崎さんは正式には一度定年になり延長されているのでしょうね。郷古さんはゲストのようですし、他のコンサートでも結構ゲストで来られますよね。ライナー・キュッヒルさんとはもう完全に契約を終えたのでしょうか。徳永さん、堀さんも風格がありましたけど、篠崎さんもあのふてぶてしさ(悪い意味でなく)が安心感につながります。

 いつも、座席に座るとき燕尾服の裾をひらりと逆さ向けにしながら座る姿は「ザ・権威主義」(良い意味です)ですね。

 ルイージとも友人のように見せられるお姿はなかなかの政治家のようです(褒めてます)。

 コンサートマスターは演奏会にあたり、指揮者とも戦う存在ですからこんな感じなのでしょうか。

 

 ルイージさんの統率力はいつも舌を巻きます。メトロポリタンでも指揮をし、ドレスデンでも指揮してきたのは伊達ではないですね。このマエストロの指揮姿は優雅でほれぼれします。ダンスもお上手なのでしょうね。一見ドイツ人ぽいですが、やはりイタリア人ですね。指揮棒を持たず、大きな動きによるリズミカルな指揮ぶりでしたが、激しい部分でも的確な指揮だったように思います。後ろの方の合唱団員はルイージさんの大きな指揮ぶりも豆粒にしか見えなかったでしょうね。

 

 演奏する側としてもわかりやすい指揮なのでしょうかね。

 ルイージさんの解釈はマーラーの合唱付き交響曲はあまりためのない、早い刻みが信条のように思います。第2番もドレスデンがかなり前、来日したときに聴きましたが、必要以上に重さを出さない音作りです。ドレスデンでもこのような軽めの音を出すんだと当時感じたぐらいです。

 

 合唱、独唱ですが、歌手の選択が素晴らしいです。それぞれの声質に違和感がなかったことがまず大事なことです。僕はテノールのミヒャエル・シャーデさんの高音をふり絞りを聴くのが好きで楽しみにしていました。今回は少しもがいている感じがありましたが、逆にそこが緊張感を生んでいたように思います。逆説的な否定?肯定?

 モーツァルトを得意にされていますが、ワーグナーが歌えるんじゃないかと思います。「大地の歌」も素晴らしい録音を残されています。ただ風貌がワーグナーのテノール向きではないかもしれませんね。シャーデのタンホイザーはそれでもなんとか想像できてもジークフリートは・・・・・・・・・・「なし」かもしれません。

 ソプラノがエレーナ・スティッキーナさんからジャクリン・ワーグナーさんになりましたが、何ら問題ないです。ミネソタ交響楽団の録音にも参加され持ち歌でもあることから不安なく聴けました。

 

 音楽の方向性もわかり、オーケストラも合唱も安定感がありました。新国立劇場合唱団の皆さんも相変わらず安定したできでした。

 N響には、是非また聴ける機会を作ってもらえるとうれしいです。

 

 不可抗力ですが、ひとつ残念だったのは、演奏会前、指揮者だけでなく、オーケストラ、合唱団、ソリストが聴衆の面前で拍手を受けるため起立するシーンで、NHK東京児童合唱団の皆さんだけ着座のままだったことです。主催者側もまずいと思ったのか、2日目は修正して、ばらばらっと起立しましたが、歌ってる最中は「一斉の規律をとれた立ち上がり」を行っている彼女たち(ほとんどが女子生徒なので)が「これはないなあ」と思いました。彼女らが悪いのではなく、想像力が少々不足した大人たちが事前に指示していなかったための出来事だったのでしょう。主催者側は「やっちまった」と思ったことでしょうね・・・

 言い訳されるとしたら、彼女たちは新国立歌劇場合唱団の左前と右前に位置し、前にはオーケストラだった(彼らはコンマスが立てば、反射的に立ちますから)ため、合唱団としての対応は初日で咄嗟(とっさ)の判断がつかなかったということでしょうね。

 

 児童合唱団登場の際は、誰もが経験不足からどの公演でも何かと小トラブルがありますが、彼女たちを尊重するためにも、大人たちがきちんと判断して十分に配慮してもらえるとさらに素晴らしい演奏会になるのですけどね。 

 微笑ましい出来事といえばそれまでですけどねテレビだとわからないかもしれないし、指揮者のルイージやオーケストラにスポットをあてる画像にしてしまえば問題ないかもしれませんけど)。

 

 今度は本物の苦言。初日演奏会で、音楽終了直後に、間髪入れず「ブラボー…」とだみ声発声した3階左側においでになったクズ客さん。素晴らしい演奏会を台無しにしてくれてありがとう❗

 主催者が演奏前に何度も注意され、多くのお客が終了後のほんの束の間の消える音の余韻に浸りたいのに、これ見よがしにできる神経が理解できません。お願いですから、2度と演奏会に来ないでください❗❗

 

 

追加:第1部終了直前と第2部終了直前のバンダ(2階Rの通路配置)のトランペットとトロンボーンが本オーケストラ側と対峙する形の競演に感動しました。初日バンダ周辺で聴き、2日目はL側で聴いていたのですが、音合わせのタイミングが本当にむずかしいですね。

 楽譜の音出しと多分ほんの少し差があるように思います。きれいに音合わせをされていました・・・・

 練習の音合わせで万全に仕上げたのでしょうね。