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 さて、「カラヤン30番勝負」を続けていましたが、この公演があったので中断します。
 今日の上野は雨です。すでに職場を異動して2回も歓迎会をしていただきましたが、ともに雨でした。そして今日も雨でした。いつから僕は「雨男」になってしまったのでしょう。

 

 さらに仕事が重くなり、ストレスをかかえる事が多くなりました。最近本当に胃がキリキリ痛みます。早く病院に行かなくてはいけません。2月に占いをやりましたが、結構当たるものですよね。もう「なし崩し的」な忙しさになりました。
その合間のコンサートです。ちなみに来週の木曜日、新日本フィルのショスタコーヴィチ11番「1905年」(アレクセーエフ指揮新日本po)をサントリーホールで聴くことになりました。あはは、よりによってショスタコなんですよね・・・

 

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 御徒町の「かっぱ寿司」に寄ってから上野に向かいました。
 ここのお寿司はお安いですよ。夕方6時30分までに入ると「おまかせにぎり」が夜の半額の1,100円です。夜でも2,200円ですからこれまた安いです。土日には行列のできる人気店です・・





 

 『エフゲニオネーギン』は小澤さんの最も得意とするオペラで『最終兵器』と呼んでいい代物です。マエストロの録音は、ウィーン国立歌劇場に顔を出し、ミレルラ・フレーニとの競演のCDが販売されています。透明感があり、清潔な仕上がりです。
もともと、このオペラは『純愛』で構成されています。本来はグチャグチャなのですが、ドロドロとした愛憎劇としては描かれていません。きわめて先がきれいに見える形で描かれています。当時のロシア国民には、あまり内容がむずかしいと理解できないこともあり、舞台転換をたくさん使用し非常にわかりやすい仕上がりにしているのが特徴です。

 

 
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 舞台客席を見回すとやはり有名人がいました。まずは今年もサイトウキネンのコンサートマスターをやるであろう安芸晶子さん。江守徹さん、そしてあの音楽評論家吉田秀和氏も来演していました。吉田さんの記事はまたどこかで見ることができるでしょうね。

 

 まず、最初に文句を言っておきます。いつも僕がこのブログで怒鳴っていること・・・わかりますよね。
 「早く拍手をするな」。「フレーズをきちんと聴いてから拍手をしろ」と言っていますが、今日は馬鹿なお客のおかげでオペラを台無しにしてくれました。第3幕第1場グレーミン公爵がタチヤーナへの思いを朗々と歌う場所があるのですが、事もあろうにもう1フレーズ残して拍手を始める「大馬鹿野郎」がいたことです。さらにそれに追随する愚かな客が多くいたことです。

 

お前ら二度とオペラに来るな!!!!!!!

 

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 なんと小澤さんがオケピットで右手で指揮を続け、左手で客席に静止をする身振りを取りました。いい加減、日本の聴衆はもっとまともにならないと。中途半端に予習するからこんなぶざまな真似をするんですよ。

 

 さて音楽ですが、小澤さんらしいものでした。今回も11列目に陣取り、小澤さんの指揮ぶりを確認しながら舞台を見ていました。まず、タチヤーナ役のロクサーナ・ブリバンからイリーナ・マタエワに変更になりました。彼女にとってはかなりプレッシャーの舞台だったでしょうね。
 舞台といえば、東京文化会館の奥まである舞台を有効に使用するものでした。



 

第1幕

 1幕は「青」を基調に構成。舞台の後方かなり奥の部分に上手(かみて)から下手(しもて)までずっと雪を降り続けさせました。そしてなんと堅く抱き合う男女が7組・・・微動だにしません。銅像のようにそのままで立っています。

 

 その中で舞台が始まります。

 

 この雪は、ずっとこのオペラの軸になります。ウィーン国立歌劇場との共同制作です。
 第1幕にはなんの舞台装置もなく、この雪だけが延々落ちてきます。

 

 清潔な黒服を着た人間の中にOL風の女性が一人現れます。マタエワのタチアーナですが、パッと見は小柄なので(細い!)日本人と間違うほどです。この演出は、今のヨーロッパ演出の趨勢というべきでしょうね。場所と時代が非常にわかりにくいです。  それから彼女の身分もわかりにくいです。衣装は明らかに現代のもので、昨年秋にやってきたドレスデン国立歌劇場の『サロメ』に似通っています。歌を歌わないと個人を特定できません。

 

 そしてレンスキーと登場するダリボール・イェニスのオネーギン。黒髪の長髪でイタリア人のようないでたち。あきらかに場所はロシアの片田舎ではないです。さらにタチヤーナの衣装もとても品のいいもの・・・
これでは、この二人の関係の根本的主題が展開できません。

 

 タチヤーナは野暮ったく、オネーギンはプレイボーイというとこからこの物語は始まるはずだったのに・・・
マルティン・クレーマーの衣装はあまりに粋なのです。

 

 反対にタチヤーナの姉のオリガの野暮ったさといったらありません。エレーナ・カッシアンは、やや横に大きい人で、バランスにかけます。この女性の間でオネーギンとレンスキーのバトルがなんて・・・・考えられません。
 配役が非常に難解な結果でもあります。

 

 さらに映像としても、演出の持ち方が弱かったです。タチヤーナがオネーギンに惹かれる過程が舞台上で演じ切れていません。単に代役だったためでなく、この『青色』基調の舞台にあります。寒々とした、暗い舞台で『恋愛の炎』が燃えるなんてありません。

 

 それにこの青色。現在、犯罪防止のために街路灯としても使用されています。人間を非常に冷静に無味乾燥にする効果があるらしく、設置箇所では犯罪件数が格段に減少しているそうです。まさに舞台上でその寒々しい演出が展開されました。
 オケピットのオレンジ系統の光の方が暖かく、さらに寒い舞台感覚になりました。

 

 第2場では、雪が手前に。舞台を前面と後面をカーテンのように仕切っています。

 

 そう、この仕切りはやはり雪というよりも「仕切りの役割」をしています。これは第3幕で明確にわかります。
 しかし、このタチヤーナがオネーギンへの思いを吐露するばあやとの場面でも氷のような部屋。

 

 きちんと『蒸し暑い』といって歌っているのに、まるでそんな感じがしません。非常に寒々しく、若い女性が強く相手を思う背景ではないようです。

 

 第3場。オネーギンはタチヤーナをふります。ここで重要な言葉をはきます。
 後ろでは抱き合っている男女が、1組1組男性の方から女性に別れを告げ去っていきます。彼ら二人の状況を映像化しています。最後の7組目はだけは女性が男性を追っかけますが、舞台袖に入る瞬間・・・・

 

 やはり彼女を振り払っていきます。

 

「ニエット、ニエット」

 日本の訳詩だけで見ているとこのことはわかりません。第3幕の第2場でも立場を逆にしたときやはりオネーギンがタチヤーナに「ニエット、ニエット」と言います。このオペラの非常に重要な部分です。

 

第2幕。第1場は社交界の場。

 まさに、卒業式、謝恩会の衣装。おいおい、「ここはどこ」状態。さらに女性たちはテーブルに上がり昔はやった六本木「ジュリアナ東京」のお立ち台ギャル状態。その後すぐに男たちがEXILE(エグザイル)の「チューチュートレイン」をやってしまう始末。あのねえ・・・・

 

 ここのタチアーナの青い衣装。この田舎娘の「だささ」を第1幕にも出すべきでした。

 

 パリから来る歌い手がの歌がなぜかモーツァルトのオペラメロディーっぽいのがいいです。チャイコフスキーって本当にモーツァルトが好きなんですね。

 

 そして第2場。「青色」から「銀色」に基調色が変わります。いいですよね。ここ。あっさりレンスキーが死ぬだけのシーン。ここも「ニエット」
 オネーギンとレンスキーの同じ節で合わせた歌。最高の箇所です。

 

第3幕

 ここから30分で終わります。第1場は放浪の旅から帰るオネーギンを皆が非難します。舞台全体が階段で構成。これは彼に降りかかる圧迫感を表しています。皆が上から降りてきて、オネーギンを取り囲みます。そして運命的出会い。決定的な逆転が起きます。基調色は『銀と黒』。どんどん「冷たさ」から「無味乾燥チック」に変わります。
この黒服の集団が後ろに向かって向きを変えた瞬間、固まりは真っ黒になります。男性の首の肌の色も隠され本当に真っ黒。

 

全なる黒の壁でオネーギンにあたります・・・

 冷徹に愛のめざめをを拒むシーン。人の愛情をすべて寒い形で拒絶する舞台演出・・・・
 ここで、恋愛の主導権は変わりますが、タチアーナの気持ちが一定だということに物語の清潔性が(なぜか)保たれます。

 

 そして最後の第2場。
 この演出では、ここで初めてオネーギンがタチヤーナに触ります。それも彼女の足にしがみつきます。
 タチヤーナが「プライドがおありでしょ・・・」と答えます。

 

 オネーギンの感情と理路整然とした攻めが「黒の基調色舞台」で生きます。階段が現れ、タチヤーナが「今でもオネーギンのことは愛しているが、オネーギンの愛は受けられない」といいます。階段の後ろには再び雪のカーテンが・・・
最後、タチヤーナは階段を上りきり、雪のカーテンの向こうに飛び出ます。結局、この舞台上で、オネーギンは一度も雪のカーテンの向こうに行きません。彼が越えることのできなかった愛の世界がむこうにはあったのでしょうね・・・

 

 「幸福」は身近にあるもの。とタチヤーナが歌い、「幸福」は身近にあったんだと答えるオネーギン。メーテルリンクの『青い鳥』のパターンです。そして幕は下ります。

 

 台本はつまらないですが、音楽は素晴らしかったです。特に木管とホルンは本当にがんばりました。そして弦のねばり。オペラ構成は初期のチャイコフスキーらしく、反復旋律が多い曲ですが、曲が始まって5分と立たず舞台に引き込まれます。楽譜は原典版ではなかったですね。チャイコフスキーはオペラについてはブルックナー並に書き直ししていますからね。

 

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 18時に始まり、21時20分に終わりましたが、最高に充実した時間をいただきました。
 もちろん終演後は楽屋口に行ったことは言うまでもありません。
 結構、人が少なくて小澤さんとおしゃべりできました。1分ぐらい優に取りました。エイジェントの人が若干困っていましたが、小澤さんも向こうから話題にのってくれました。
 内容は内緒です。僕と小澤さんの内緒です。
 マエストロは最高にハートのある人です!!

 

少しお顔がむくんでいました。心配です・・・




 

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 最後に、今回タチヤーナの代役をしたマタエワです。楽屋前他の歌い手たちがサインをする中、ポツンと1人突っ立ていたところをカメラにおさめました。この世界も「格」というのがあるのでしょかね・・