今回は、紀州へら竿について、若干の考察を書いてみたい。

私は、学芸の仕事に従事してきたが、学生の頃から美術品や伝統工芸については深い関心と、それらを創作する作家への畏敬の念を持っていた。

美術品についてはこの項では取り上げないが、紀州へら竿(以下「竹竿」という。)については、長く伝承されてきた技を駆使して、素材の竹を組み合わせ、1本の竿に仕上がるまでに相当の工程を経て世に送り出す。作者の技術力、センス、美意識、それらの全てを結集しなければ、私たち竹竿愛好家の満足度を満たすことは出来ない。

 

それでは、どのような竿が魅力的で、竹竿マニアから指示されるのであろうか。

竿の調子には、軟式~硬式まで多様であるが、感覚は個人差があり好みも分かれるので、こんな竿が良い竿とは一概に言えないものである。しかも、その性能は使ってみなければ分からないものなので、高価な買い物をしても期待外れ、ということは時々経験することになる。一流の作者であっても、良くない竿は出来てしまう。

結論を言えば、好バランス、強い張り、に集約されると私は思っている。バランスが良く、火入れがしっかりと入り竿全体に張りがあれば、マニアから指示される価値ある紀州へら竿と評価してよい。もちろん、良い素材が使用されていることが条件となる。素材と技術力が融合することで、曲がりの出にくい丈夫な竿の創作が実現する。

 

私の好きな調子を敢えて言うならば、先に抜けて、振って軽く感じる竿である。昔から、優れた竹竿の定義として、「細(ホソ)、軽(カル)、ピン」と言われてきた。

穂先が太く、先が重い竿は好みではないし、釣味にも影響がある。穂先が細く(やや細い、も含め)しっかりと造られた竿は、シャープで釣味が良い。大きい魚にも十分耐えられるしなやかさとパワーを感じられれば、楽しいへら鮒釣が約束されるであろう。

私は、このような味わいのある竿を使い、へら鮒釣りを楽しんでいる。

したがって、手元にある竿は、僅かな本数しかない。満足度の低い竿は、手放すことにしている。

 

追記)素材について

紀州へら竿を制作する上では、技術力以前に良い竹材を使用することが必要不可欠となる。竹竿に適した材料は、竹の繊維がしっかり詰まった重い素材が選ばれる。果物でも野菜でも、繊維が凝縮していないものは軽くておいしくない、そして割れやすい。これと同じ理論である。重い竹材を使用して、如何に振って軽く感じる竿に仕上げるには、前述のとおり先に抜ける、つまり穂先、穂持ちを細目にし、しっかりと元竿までバランスの取れた竿に仕上げることが必要である。

良い竿は、良い素材で作られる、即ち、良い素材=必要十分条件となる。

1本の竿として市場に並べられても、自重の極端に軽い竿は、選ばない方が良い。

 

                                                                                              文士    高司

 

↓至峰 2000年記念作、10尺。

削り穂で先が軽く、バランスの良い中硬先調子。

間瀬湖でよく使うが、魚を掛けたときの釣り味は至峰でしか味わえない。