2018年-2024年

佐々木崇シューマンリサイタル(全12回)


シューマンはピアニストにとってロマン派のレパートリーの重要な作曲家の一人ですが、ピアノ曲は主要なものがop.1からop.23まで初期の作品でほとんどを締めてられていています。


シューマンはピアノ曲のみならず、歌曲、弦楽器や管楽器など様々な楽器による室内楽、交響曲、オラトリオ、レクイエム、オペラなど全ジャンルを制覇した作曲家でもありました。


ピアニストとしてシューマンの音楽を追求していくのに、初期のピアノ作品だけ研究するのはシューマンを知ることにはならない。それならばピアノが入った室内楽を全て取り上げてリサイタルをしよう、と思ったのがこのシリーズの始まりでした。


シューマンの室内楽は主に中期以降に位置し、初期のピアノ曲のアヴァンギャルドな試みではなく、幻想小曲集op.88のような例外がありつつも、古典回帰とも言える形式のなかで、ポリフォニックな書法を展開し、そのファンタジーを広げていきました。

それを経て再び初期のピアノ曲に目を向けてみると、シューマンほど最初からバッハの対位法的書法と和声を意識していた作曲家はいなかったのだということに改めて気がつきました。


こうした室内楽作品とピアノ曲を組み合わせた全12回にも及ぶ演奏会は他に類がなかったと思っています。


2018年

第1回 〜詩人は歌う〜

テノール歌手の碓氷昴之朗さんとの共演

東京公演は偶然にもシューマンの誕生日でした。




第2回 〜新しい音楽のために〜

日本フィルハーモニー交響楽団のチェリスト伊堂寺聡さんとの共演



2019年

第3回 〜遠くからの声〜

ヴァイオリニストの長岡聡季さんとチェリストの森山涼介さんとのシューマン共演はこの時から始まります。




第4回 〜音楽の構造改革と詩情〜

ヴァイオリニストの長岡聡季さんにはヴィオラでも共演させて頂きました。

この後北海道でも演奏させて頂きましたが、ちょうどこの頃でした、謎のウィルスの噂が囁きはじめたのは。。




2020年4月新型コロナによる緊急事態宣言が出され、音楽家は皆活動の場を失われました。私がYouTubeを始めたのもこの頃です。



2020年5月6月のシューマンリサイタルは延期となりました。その時作ったチラシは全て処分となりました。



2020年

第5回 〜ロマン的フモールの世界〜

新型コロナによって延期された公演、チラシも刷り直し、初めてのピアノソロのみによるリサイタルでした。

チラシにはしっかり感染対策をしていることをアピールしましたが、一番大変な時期でした。



2021年

第6回 〜詩人は語る〜

この頃からシューマンの対位法に対する書法の重要性に明確に気が付き始めました。ピアノ三重奏曲第2番はその意味で大変な傑作です。




第7回 〜幻想のはばたき〜

ヴァイオリンソナタ第2番はバロック的な対位法とロマン的情熱の迸りを備えた傑作でした。この頃からシューマンの音楽に対して、非の打ちどころのない完成されたものを目指している事を感じ始めます。




2022年

第8回 〜シューマンからクラーラへ〜

ピアノソロのみによるリサイタル。アルバム綴りは小品が並べられることで様々な時代の諸相を並列的に聞かせる、まるで過去のアルバムをめくっていくような新鮮な感動がありました。

ピアノソナタ第1番は学生時代よりその内容の濃さに弾けるものと思ってはいませんでした。しかしじっくりと取り組むほどにその緻密さに教えられ、一番好きな楽曲の一つとなりました。




第9回 〜伝統の革新〜

この回で取り上げた曲はどれも一筋縄ではいかず、もう一度リベンジしたい曲目です。ピアノ三重奏曲はまさに伝統を革新した一曲でしょう。




2023年

第10回 〜メールヒェンの情景〜

この回では後期シューマンの深まりゆく響きを感じさせる前半2曲にピアノ四重奏曲の傑作が続きました。この回からピアノのペダルに関してのこだわりを持ち始めました。楽譜に書かれた指示に忠実に、他で使う場合も対位法の線を響きで誤魔化さないようバッハを弾く時のような扱いに変えていきました。




第11回 〜ファンタジーの飛翔〜

幻想と付く作品が並んだこの回、シューマンのファンタジーは対位法の礎に気づかれたものである事を自覚することでシューマンの真価を問いました。



2024年

第12回 〜"詩的な未来"へ〜

最終回、シューマンの傑作が集大成として並びました。暁の歌は新たな響きの光を持ったとても美しい希望の歌です。シューマンは作曲家として最後まで進化を続けたと思う作品です。




全12回を通じて、延べ1000人のお客様にお越し頂き、ローベルト・シューマンという一人の作曲家の世界をお聴きいただけたことが、私の人生の中でも燦然と輝く金字塔となりました。


私にとってこの6年半は、苦しみと喜びの連続でした。何度辞めたいと思ったことでしょう。しかし、聴きに来てくださったお客様の笑顔を見るたびに、その苦しみは消えて、やってきてよかったと心から思え、次への活力を頂きました。


6年半の挑戦を支えてくださった方々、スタッフ、そして聴きに来てくださった全ての皆様に感謝します。


シューマンリサイタルの幕は静かに閉じます。


ありがとうございました。


佐々木崇