不一致はお互い不幸
理念で共有化を図る
藤原 健嗣(ふじわら・たけつぐ)氏
[旭化成取締役副会長]
旭化成はグループ全体で様々な事業に取り組んで
います。祖業であるケミカル・繊維事業。そこから
派生した建材・住宅事業やエレクトロニクス事業が
あり、そして最近力を入れているヘルスケア事業
とバラエティーに富んでいます。
自分の人生の目的と会社の目的が合致しないと、
お互いが不幸です。そこで必要となるのは、
リーダーが分かりやすい言葉で会社の目的を表現
することです。
山登りと同じように、目的を達成するルートはいろいろ
ある。必ずしもが自社で開発しなくても、他社から導入
してしまった方がずっと早いこともあります。こだわら
なくてはならないのは目的であって、手段ではないの
です。
社員が仕事の目的を忘れないようにするためには、
会社の経営陣だけでなく現場のリーダーも常日頃から
「君は何のためにその仕事をしているんだ」と聞いて
みることが大事です。社員は言葉にすることで目的が
より明確になり、自分を奮い立たせるきっかけになる
からです。
(2014.06.09号から)
藤原さんは、
「こだわらなくてはならないのは目的であって、
手段ではないのです」
と述べています。
この言葉で思い出すのは、マキャヴェッリの
「目的は手段を正当化する」(Ends justify means.)です。
目的を果たすためなら、どんな手段を講じてもよいとなると、
とても危険だと感じていたのです。
金目のモノに目をつけ、羽振りのいい人を見て、
危害を加えて金品を奪ったり、金銭目的誘拐や、
イライラを解消するために、無差別殺人を行っても
よいことになります。
これらのことは、絶対に許されない行為です。
私は、こうした点で、この言葉に長い間、
偏見を持っていました。
つい最近になって、その偏見が払拭されるきっかけが
ありました。
塩野七生(しおの・ななみ)さんの
『マキアヴェッリ語録』
(塩野七生 新潮文庫 平成4年11月25日 発行)
を読んだからです。
この本の中に、「目的は手段を正当化する」の部分が
掲載されています。
(上掲書 P.142)
祖国の存亡がかかっているような場合は、
いかなる手段もその目的にとって有効ならば
正当化される。
この一事は、為政者にかぎらず、国民の一人一人
にいたるまで、心しておかねばならないことである。
事が祖国の存亡を賭(か)けている場合、その手段
が、正しいとか正しくないとか、寛容であるとか残酷
であるとか、賞賛(しょうさん)されるものか恥ずべき
ものかなどについて、いっさい考慮する必要はない。
なににもまして優先さるべき目的は、祖国の安全と
自由の維持だからである。
―― 『政略論』 ――
人口に膾炙した言葉は、文脈を理解しないと、とても
危険なことだと思いました。
例えば、福沢諭吉の『学問のすすめ』で有名な一節が
ありますね。書き出しの部分です。
「天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず」
この言葉は人間は平等であることを述べたものですが、
この言葉の後に、このように書いています。
(『現代語訳 学問のすすめ』 福澤諭吉 齋藤孝=訳
しかし、この人間の世界を見渡してみると、
賢い人も愚かな人もいる。
貧しい人も、金持ちもいる。
また、社会的地位の高い人も、低い人もいる。
こうした雲泥の差と呼ぶべき違いは、
どうしてできるのだろうか。
その理由は非常にはっきりしている。
『実語教』という本の中に、
「人は学ばなければ、智はない。
智のないものは愚かな人である」と
書かれている。
つまり、賢い人と愚かな人との違いは、
学ぶか学ばないかによってできることなのだ。
ちくま新書 PP.009-010)
『学問のすすめ』を書く目的を明確にしているのです。
文脈を理解せずに、一部だけを取り上げると、
大きな誤解や偏見を生む原因となることがあります。
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