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完璧!礼真琴 サヨナラ公演「阿修羅城の瞳」開幕(ネタばれ注意)

&綺城ひか理ディナーショー

 

星組トップスター、礼真琴のサヨナラ公演、ミュージカル「阿修羅城の瞳」(小柳奈穂子潤色、上演台本、演出)とファンタジック・タペストリー「エスペラント!」(生田大和作、演出)が19日、宝塚大劇場で開幕した。礼の退団に、劇団新感線の人気作の宝塚版、加えて111期初舞台生の披露公演、極美慎、小桜ほのかの組替え前最後の公演ということもあって近来にないチケット難、初日開幕前の正門前には久々にもどりチケットを求めるファンの姿が多数みられた。

 

そんな今年最大の話題作「阿修羅城」前評判にたがわず見ごたえのある舞台に仕上がった。もともとの新感線オリジナルは休憩をはさんで時間半以上ある長大作なのだが、芯のストーリーを抜き出して1時間半に短縮、歌やダンスも取り入れ、すっきりとわかりやすいミュージカル仕立てにした小柳氏の潤色の手腕がさえわたった。この日、新感線の作家中島かずき氏と演出家のいのうえひでのり氏も客席から観劇、カーテンコールで紹介はなかったが二人とも大満足だったという。中島氏はさっそくSNSで主演二人を絶賛「作家冥利に尽きる」と投稿した。

 

そしてなんといっても病葉出門(わくらば・いずも)に扮した礼の硬軟自在の演技力、卓抜した身体能力、豊かな歌唱力の素晴らしさは天下一品。着流しに生足を惜しげもなくさらしてミエを切る姿は、もう男役の域をこえた神業に見えた810日の東京千秋楽まで無事に務めあげてくれることを祈るしかない。

 

さらに加えて出門と運命の出会いをする闇のつばきで女役に挑戦した暁千星の艶やかなこと。男役っぽい姉御肌のつばきから純白の衣装に身を包んだ妖艶なつばきを演じ分け高い音程の女役のソロも見事に歌いこなした。真っ赤な大階段をバックにしたクライマックスシーンは鳥肌の立つくらいの素晴らしさ。この場面は宝塚の名場面として後世に残るだろう。暁が月組から星組に組替えしたのはこの役を礼の相手役として演じさせるためだったのではと思わせるぐらい二人の息がぴったりあっていた。

 

そしてもう一人、極美慎が演じた鬼御門(おにみかど)の副隊長、安倍邪空役をオリジナルよりもさらに個性的な役にふくらませたのもストーリーの展開をより分かりやすくした要因。「にぎたつ」の時とは打って変わった押し出しの強い演技が強烈なインパクトで迫った。この3人のトライアングルの巧みさがこの舞台の勝因だった。一期一会とはよく言ったもので3人の共演はこれが最後、しっかりと目に焼き付けてほしい。

 

 

オリジナルで割と重要な役だった抜刀斉(橋本じゅん)がカットされ、神剣を渡す役となった安倍晴明役のひろ香裕、鶴屋南北役の美稀千種といったベテラン勢、鬼御門メンバーの天飛華音、稀惺かずと、娘役では美惨の小桜ほのか、桜姫の詩ちづる、笑死(えみし)の瑠璃花夏などもそれぞれワンポイントある見せ場がある。新感線らしいおふざけシーンはもっぱら彼らが担っていた。

 

南北一座の四谷怪談で礼の相手役お岩を演じた俵蔵の輝咲玲央の芝居っけたっぷりのおかしさも序盤の笑いを誘っていた。オリジナルは全体が南北の芝居だったというオチがあったのだがこの舞台では?見てのお楽しみにしておこう。

 

一方「エスペラント!」は、タイトルが希望を抱く人という意味らしく、礼真琴にそのイメージを託して宝塚110周年以降の新たなレビューを探ろうという壮大なテーマを掲げたショー。

 

礼が、黄金に輝く装置の中央からセリあがって主題歌を歌うプロローグから、歌にダンスにさまざまな礼の魅力が楽しめる。虹色のパステルカラーに彩られたほんわかした一幕が象徴するように全体的にロマンティックレビューの生田版といったムード。そんな懐かしい雰囲気が礼にぴったりあって「阿修羅城」のおどろおどろしさをすっきりと流してくれた。タップダンスを盛り込んだ111期生のラインダンスは初舞台生と礼がタップで絡むシーンもあってかなりレベルが高く見ごたえがあった。もちろん礼のさよならを意識した惜別のシーンもたっぷり。ソロで踊る燕尾服姿の礼にもはや感謝という言葉しか思いつかない。

 

一方、この日、宝塚ホテルでは「エンジェリックライ」を最後に退団した元花組の綺城ひか理のディナーショー「TAKE IT EASY」が開かれた。退団後初お目見えということもあって会場はぎっしり超満員。星組時代に同じ舞台に立った愛月ひかるをゲストに迎え、持ち前の滑らかでソフトな美声をたっぷりきかせてくれた。

 

一曲目は徳永英明の「壊れかけのラジオ」から。ファン時代に見たバウのショーで湖月わたるが歌っていて好きだった曲だったそうで、それがソフトな綺城の声質にぴったりあって一気に彼女の歌の世界に引き込まれた。「モーツァルト!」から「僕こそミュージック」「星から降る金」と難曲を自分のものとしてリラックスして歌う姿に感動、「ロミオとジュリエット」からも大好きだったというパリスの曲「結婚の申し込み」と乳母の曲「あの子はあなたを愛してる」を楽々と歌い分けるなど、いつまでも聴いていたい心地良さだった。

 

ゲストの愛月はME AND MY GIRL」の「愛は世界を回らせる」から登場。「ファントム」から「you are my ownをデュエット。爆笑トークのあと愛月は「アシナヨ」を歌って大喝さいを浴びた。

 

綺城は米津玄帥の「地球儀」小田和正の「キラキラ」そしてアンコールに平原綾香の「おひさま~大切なあなたへ~」をしっとりと歌ってショーを締めくくったが歌うことを心底楽しんでいる感じがダイレクトに伝わって、人柄の良さがあらわれた楽しいトークとともに晴れ晴れとしたいいショーだった。

 

東京では元星組の娘役トップ、舞空瞳にゲストに迎え、こちらも大好評だったとか。今後も活躍してほしい逸材だ。

 

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