©️梅田芸術劇場 公演告知より転載
杜けあき「思い残すことはござらん」名台詞再現「忠臣蔵」朗読劇
元雪組トップスター、杜けあきのサヨナラ公演にして代表作「忠臣蔵」―花に散り雪に散り-(柴田侑宏作、演出)が朗読劇として33年ぶりに甦った。東京公演が終わり28日から兵庫県立芸術文化センター中ホールでの公演が始まった。
「忠臣蔵」といえば言わずとも知れた主君の遺恨を晴らそうと立ち上がった赤穂47士の仇討ちの物語。歌舞伎、映画、ドラマ、アニメは数知れず、毎年のように討ち入りに合わせて12月には現在に至るまで何らかの形で取り上げられる日本エンタメ界の精神的支柱とされる代表作。宝塚でも戦前から何度か上演されているが、「松の廊下」から「討ち入り」まで本格的に取り上げたのが1992年の雪組公演で、これが旧宝塚大劇場最後の公演となるとともに当時トップだった杜のサヨナラ公演となった。
以来33年、すっかり伝説になってしまった感があったが、今回、杜はじめ当時の出演者を中心にゆかりのOGメンバー11人が集合して朗読劇という形での再演が実現した。どういう経緯でこれが実現したのか詳しいことは定かではないが、これが素晴らしい出来栄えだった。かつての名作をOGで再現する新たな鉱脈の先駆けになりそうだ。
さすがに33年前の舞台はうろ覚えだったが、初演版を1時間半に短縮した朗読劇は、杜はじめ出演者たちの思い入れの深さも手伝って、かつての舞台がまざまざと甦った。大石内蔵助に扮した杜はじめ、衣装は黒にゴールドの飾りで統一、台本を手にしながら読み合わせていくのだが時には台本を離して絡むシーンもあってドラマチックに展開。
本来の宝塚版は大階段を使った絢爛豪華なプロローグからはじまって、装置や衣装に贅を凝らしたうえ、二番手だった一路真輝が主君浅野内匠頭と浅野家家臣の岡野金右衛門、娘役トップの紫ともが浅野内匠頭の妻、瑶泉院と大石内蔵助の命を狙う忍びのお蘭を一人二役に設定してサスペンスを醸成、くわえて海峡ひろきが演じた浪士の一人、大高源吾が俳諧をたしなんでいたということから全編に俳句を散りばめて抒情味を加えたことが効いていたのだが、朗読劇はそれらオリジナルの美点を活かしながら約1時間半にまとめあげた荻田浩一の潤色の手腕が見事だった。バックに初演の舞台写真や錦絵を使ったシンプルな装置も効果的だった。
出演者は大石内蔵助が杜、瑶泉院とお蘭を紫とものトップコンビで再現。内匠頭と岡野は初演の新人公演で内蔵助、本公演では杉野十平次役だった香寿たつき、吉良上野介を初演では綿谷役などを演じた立ともみ。ほかに渚あき、小乙女幸、朱未知留、はやせ翔馬、寿つかさといった初演ゆかりのメンバー、成瀬こうき、彩吹真央が新たに加わって様々な役を受け持った。主題歌はじめ音楽は寺田瀧雄、𠮷田優子作曲のオリジナル版を使用、今回、指揮を務めた𠮷田さん自らピアノを担当したバンド演奏がこれまた見事で作品の効果を一段と高めていた。
宝塚の「忠臣蔵」で一番有名なラストの内蔵助のセリフ「思い残すことはござらん」は杜のサヨナラと旧大劇場の最後とダブって歴史的な名セリフとなったが、プログラムに採録されている台本にはなく、あとから付け加えられたセリフだった。とにもかくにも、これだけの本格的な日本物は、新感線やアニメ、ゲームの舞台化ばやりの今の宝塚ではもう不可能かも、とまで思わせた朗読劇だった。
過去の宝塚の作品を朗読劇としてOG公演で再現することができるなら、たとえば上田久美子作品を当時のトップスターたちがやりたいと声を上げてくれれば再現することができるわけで、これはぜひ実現してもらいたいものだ。
©宝塚歌劇支局プラス3月29日記 薮下哲司