©️宝塚歌劇団

 

宙組公演、粛々と再開「Le Grand Escalier」開幕

 

宙組特別公演「Le Grand Escalier(斎藤吉正作、演出)20日、宝塚大劇場で開幕した。昨年101日以来約9か月ぶりの再開となる宙組公演、1時間20分のショーのみの公演で、宝塚レビューの歴史を歌とダンスでつづり、セリフは一切なし難解な芝居を長々と見せられるよりはこの方がずっとシンプルで見やすく、急ごしらえの今回の公演が逆に宝塚本来の魅力を見せつけた格好。料金も格安で今後もたまにはこういう形式の公演もいいのではと思わせた。

 

宙組公演がここまで公演がなかったのは、いうまでもなく昨年930起こった不幸な出来事に端を発している。劇団は遺族とは合意をみたが「弔意なき謝罪」や「悪意なきパワハラ」発言が、世論に「誠意なき対応」ととらえられいまだにすっきりしない状況が続いている。そんななか半ば強引にみえる形での公演再開には賛否が相次いでいるが、20日の初日は待ちかねたファンが温かい拍手で宙組メンバーの復帰を迎えた。ただ、ここでも謝罪はあっても弔意はなかった。パワハラや過重労働を認める前に、まず亡くなった仲間に誠意をもって弔意を示すこと。改革はそれからでも遅くはないと思う。

 

さて眼目のLe Grand Escalier」は、フランス語で大階段の意味。赤白青のトリコロールカラーのフランス国旗が敷き詰められた大階段中央に芹香斗亜が登場。宝塚レビュー第一作「モン・パリ」の主題歌を高らかに歌い上げてオープニング。国旗が引き抜かれると同じトリコロールカラーの紳士淑女たちが現れ、曲はタイトルと同名の新曲に変わる。新曲はこの曲だけで、あとは110周年を迎えた宝塚レビューの代表的な曲を時系列関係なく次から次へとメドレー形式で歌い継いでいく構成。

 

芹香はプロローグのパリ・シャンソンメドレー、「ザ・レビュー」の名曲「夢人」の旅人、「ノバ・ボサ・ノバ」から「シナーマン」、「マンハッタン不夜城」の「ウェルカム・トゥ・マンハッタン」、「ゴールデンデイズ」から同名主題歌などを、フィナーレでは名曲「愛の旅立ち」を熱唱、「エクスカリバー」から「未来へ」の総踊りと続けて、「王家に捧ぐ歌」の「世界に求む」で春乃さくらとのデュエットダンスへとつないだ。大劇場に響き渡る朗々たる歌声を聞き、舞台空間に風を起こす大きなダンスを見ていると、この9か月にあったさまざまな出来事すべてを水に流してしまうだけのパワーがあって、不思議な感覚に襲われた。舞台で答えを出す、そんな熱さを感じた。

 

相手役の春乃も歌唱力が一段とあがったように見受けられ、休演中のレッスンの成果が表れたようだ。娘役たちを引き連れて歌うラテンクィーンの場面やブーケを持って歌う「ラ・ヴィオレテラ」(「ラ・ベルたからづか」)などソロで聴かせた。

 

桜木みなとは「夜霧のモンマルトル」や「哀しみのコルドバ」の「コルドバの光と影」などのマタドールの場面が印象的。フィナーレで三番手羽を背負った瑠風輝は「ダル・レークの恋」からの「まことの愛」や「華麗なる千拍子」からの「幸福を売る人」などで改めて歌のうまさを再認識させた。

 

鷹空千空、風色日向、そして約一年ぶりの復帰となった亜音有星も元気なところを見せていて若手パワーも健在。真白悠希、愛未サラらのウタウマメンバーもきっちりきかせどころがありデュエットダンスのカゲソロでは志凪咲杜(しなぎ・さくと)が見事な歌声を響かせた。娘役では天彩峰理と山吹ひばりが瑠風や風色とペアで登場、ほぼ同等の扱いだった。

 

観劇中いろんなことが頭をよぎり、舞台上の明るい笑顔の裏事情が透けて見え観劇の邪魔となったが、後半はある程度邪念を取り払って見ることできた。それは、やはり宝塚の名曲の数々のおかげだろう。ただ、さすがに手拍子はできなかった。コロナが再び宙組を襲っていて、今後に一抹の不安を残しながらのスタートではあるが、発車したからには千秋楽まで突っ走ってほしい。

 

©宝塚歌劇支局プラス621日記 薮下哲司