ポスター写真より転載
 

明日海りお主演ミュージカル「王様と私」大阪で大千秋楽

 

サウンドオブミュージック」で知られるリチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン二世作詞コンビの初期のミュージカル「王様と私」が、北村一輝の王様役、明日海りおのアンナ役というニューキャストによる上演が実現、3月に東京・日生劇場からスタート、58日、大阪・梅田芸術劇場メインホールで千秋楽を迎えた。

 

1860年代のシャム(現タイ)。王室の家庭教師としてバンコクに赴任したイギリス人将校未亡人アンナが、価値観の全く異なる国王と、最初は対立しながらも次第にお互いをリスペクトしていく様子をロジャース&ハマースタインの名曲の数々をちりばめて描いた異文化融合のドラマティックミュージカル。

 

1951年のブロードウェー初演から73年。現在の視点から見ると初演オリジナルは王様が戯画化され白人優位主義がハナについて日本人が見ても不快感をもよお、タイの人々が受け入れがたいのは想像に難くない。日本ではユル・ブリンナー、デボラ・カー主演の映画版(1956年)公開後の1965年の市川染五郎(現松本白鴎)越路吹雪以来さまざまなコンビで上演されているが、当初はオリジナルに準じ西洋人視点での上演だったが、1988年の松平健×鳳蘭のころから少しずつタイ王室の描写に威厳とリスペクトが感じられるようになり、今回の小林香演出バージョンは訳詞から新たに書き直し、おなじ曲おなじ物語なのだが、タイ王室サイドからの視点が際立ち、当時の混沌とした世界情勢が現代とオーバーラップして古めかしさが取り払われ随分新しいドラマに生まれ変わった。

 

何より明日海りおのアンナが、品と言いちょっとお茶目な部分といい彼女にぴったりだったのと、誰もが知っている名曲の数々をソプラノの高音域まで安定感たっぷり余裕をもって歌いこなしたのが見事だった。幕が開いてすぐの「口笛吹いて」王室で子供たちとともに歌う「ゲッティング・トゥー・ノウ・ユー」が特に素晴らしい。

 

一方、ミュージカル初挑戦となった北村一輝も登場シーンから威厳オーラを発散、予想をはるかに上回る王様を体現、強烈なインパクトを残した。一番の見せ場「シャルウイダンス」の明日海との呼吸も実自然で、笑顔の中に一回一回を渾身の力を込めて全身全霊で演じている様子がうかがえる熱演千秋楽までにかなり体力を消耗したのではないかと見ていて心配になるほどだった。

 

主演の二人以外の共演者も適材適所。ビルマの踊り子で貢物として王室にきたタプティムに起用された元雪組娘役トップ、朝月希和も宝塚時代の大人っぽいイメージとはがらりと変わった楚々とした役ながら、美しい歌声を生かして好演。後年「ウエストサイド物語」の振付でブレイクするジェローム・ロビンスが振り付けた劇中劇「アンクル・トムの小屋」のタイ舞踊とモダンダンスを融合した場面は今見ても斬新で、朝月の朗読も緊張感があふれた。この音楽が「キャッツ」の劇場猫グロールタイガーの場面の音楽とそっくりなのも再確認できた。

 

王様の第一夫人であるチャン王妃役は元劇団四季のプリンシパル女優、木村花代だったがその圧倒的なソロも聴きごたえがあった。

 

チュラロンコン王子(前田武蔵立石麟太郎)はじめ王子、王女たちのかわいらしくも大人顔負けの落ち着いた演技も驚嘆。見事なアンサンブルだった。

 

曲は素晴らしいのだが内容にいまひとつ共感できなかった作品だったが、今回のリニューアルバージョンは明日海、北村のフレッシュなコンビ力と小林演出の新解釈でこれまでの印象を大幅に覆し好感の持てる公演だった。大千秋楽の8日は子役はじめ出演者全員の紹介があり和気あいあいのうちに終幕となった。

 

©宝塚歌劇支局プラス510日記 薮下哲司