©️劇団四季

 

劇団四季、最新ミュージカル「ゴースト&レディ」開幕

 

劇団四季の最新オリジナルミュージカル「ゴースト&レディ」(高橋知伽江脚本、作詞、スコット・シュワルツ演出)が6日、東京・四季劇場秋で開幕、11月までのロングランをスタートさせた。

 

藤田和日郎原作の「黒博物館ゴーストアンドレディ」の舞台化で、19世紀のロンドンで近代看護の礎を築いたフローレス・ナイチンゲールと芝居好きのゴーストが出会ったことから起きた感動的な出来事をクリミア戦争を背景にファンタジックな要素を交えて描いたミュージカル。

 

題材の素晴らしさもさることながら音楽、装置などどれも第一級、出演者のレベルの高さも四季ならでは。「ロボット・イン・ザ・ガーデン」「バケモノの子」とつづいた四季のオリジナルミュージカルのなかでも最も優れた出来栄え、ワールドプレミアと位置付けているがすぐにでもロンドン、ニューヨークで上演しても通用する完成度の高い舞台だった。脚本、作詞は「アナと雪の女王」などの高橋知伽江、「ノートルダムの鐘」のスコット・シュワルツが演出を担当した。

 

19世紀、ヴィクトリア女王時代のイギリス。女性が自立することはおろか職業を持つことすら偏見があった時代、裕福な家庭に育ったフローレスは看護の道を志すが、両親から反対され生きる希望を失い、ドルリーレーン劇場の公演初日に現われるというシアターゴースト、グレイを訪ねて死を望む。

 

グレイは、フローレスの真剣度を試したうえで、絶望のに堕ちた時にだけ取り殺すという条件のもと、クリミア戦争に従軍看護婦として志願するローレスとともにトルコ北部スクタリ野戦病院に向かう。しかし、現地でフローレスを待ち構えていたのは兵士を看護すること自体を拒否されるなど想像を絶する過酷な状況の数々だった。そんななか絶望せず目を輝かせて看護の仕事をまっとうしようとするフローレスにグレイはある夢を語りかける。

 

開幕アナウンスのあと静寂を突然かきけすような大音響とともに場内が暗転、次の瞬間、19世紀のロンドン、初日のざわめきで華やかな雰囲気のドルリー・レーン劇場のきらびやかな真紅の場内へ。初日には必ず現れるというシアターゴースト、灰色の男の話題で盛り上がっている。

 

ゴーストが見えるフローレス(フロー)は雑踏の中のグレイを見つけ、「私を死なせて」と懇願する。いかにも良家の子女らしい風情のフロー役は谷原志音、長年のゴースト生活で刺激を求めているらしいひょうきんで軽いグレイ役は萩原隆匡。意表を突くオープニングから一気に物語の世界に引き込んでいく。

 

男性優位の社会の中での女性の自立という現在にも通じるテーマを縦軸に、当時、下賤な職業とみなされていた看護婦の地位向上に尽力したフローレス・ナイチンゲールとシアターゴースト、グレイの不思議な絆を横軸に描いて深い感動を呼ぶ。

 

フローレスが周囲の反対をおしてクリミア戦争に赴いたものの、軍医長官ジョン・ホール(瀧山久志)にことごとく妨害される一幕から、もう一人のゴースト、デオン・ド・ボーモン(岡村美南)が登場して、物語が意外な動きを見せる二幕と、息もつかせぬ面白さ。そして訪れる怒涛のクライマックス。生きることの尊さを歌いあげる圧倒的な感動は筆舌につくしがたい。

 

フロー役の谷原、ゴースト役の萩原、ホール役の瀧山、デオン役の岡村と初日キャスト充実した歌唱力と演技は見ごたえ聴きごたえ十分。元宝塚花組の実力派、真瀬はるか(92期生)、金本泰潤、野中万寿夫、宮田愛という役替わりキャストでの公演も準備されていて、こちらもおおいに期待できそうだ。

 

11月までの東京公演以後大阪はじめ各地での公演が予定され、いずれはロンドンやニューヨークでの公演も視野にいれたいという四季渾身の最新オリジナルミュージカルだ。

 

©宝塚歌劇支局プラス59日記 薮下哲司