©️宝塚歌劇団
 

美しすぎる男朝美絢主演、雪組「仮面のロマネスク」全国ツアー開幕

 

雪組の人気スター、朝美絢の全国ツアー初主演によるミュージカル「仮面のロマネスク」(柴田侑宏脚本、中村暁演出)とショー・パッショナブル「Gato Bonito!!」(藤井大介作、演出)が12日、梅田芸術劇場メインホールから開幕した。

 

ラクロ原作「危険な関係」の舞台化である「仮面のロマネスク」は1997年雪組の高嶺ふぶき主演による初演以来、大空祐飛主演による宙組、近くは明日海りお主演の花組全国ツアーで二度上演されている柴田侑宏氏の代表作の一つ。1830年のフランスの貴族社会を舞台に女性を口説くことを生きがいとする青年貴族ヴァルモン(朝美)とかつての恋人である若き未亡人メルトゥイユ侯爵夫人(夢白あや)の官能的な大人の駆け引きを、柴田氏ならではの筆致で宝塚風に甘く脚色している。

 

ジェラール・フィリップが主演したフランス版はじめ何度も映画化された作品群比べて、非常にソフトな味わいになっていて、きわどい話を巧みに心理的葛藤に重点を置いて普遍性を持たせたところが心憎い。とりわけ「美しすぎる男」がトレードマークになった朝美がヴァルモン子爵役にぴったりで、男役としての色っぽさが充満、メルトゥイユ侯爵夫人役の夢白、トゥールベル夫人役の希良々うみの好演もあって、歴代の「仮面のロマネスク」のなかでもトップクラスの出映えになったと言っていいだろう。

 

人間関係がかなり複雑で、ダンスニー男爵(縣千)やメルトゥイユ伯爵夫人の執事ロベール(真那春人)らに随時説明させたりして工夫がされているものの同一人物が姓と名前で呼ばれたりするので初見ではついていけない人が続出、事前に人物相関図を叩き込んでから見るのがおすすめだ。

 

とはいえ朝美のヴァルモンは絶品。女心をとろかすような濡れた瞳がなんともいえない危険なムードを生み出し、スキャンダラスな作品世界に有無を言わせず納得させた。ヴァルモンとメルトゥイユが影の二人と踊る第11場恋の証から仮面舞踏会に至る展開はここ最近の宝塚の舞台には見られなかった緊迫感に満ちたものだった。

 

夢白が演じたメルトゥイユはもともと宝塚の娘役を超えた役ではあるが、夢白が品格を損なわずに自我を主張した見事な演技で圧倒的な存在感を示した。花總まり、野々すみ花、花乃まりあ、仙名彩世とつづく系譜を受け継いだ好演だった。秋のマリーアントワネットが楽しみだ。

 

一方、二人の賭けの対象となるトゥールベル夫人役の希良々うみも貞淑な女性が恋に落ちていくさまを確かな演技で表現、見る者の心に訴えかけた。この役も初演の星奈優里や再演の藤咲えりなどが印象深いが希良々もここへきて実力発揮というところ。

 

ダンスニー男爵の縣は、いわゆる道化の役どころ。空気を読めない青年を縣が巧みに演じて笑いを誘い暗くなりがちな作品を明るい雰囲気に包み、ムードメーカー的な役わりを果たしていた。あとメルトゥイユの従妹で箱入り娘セシルに扮した華純沙巧まずしての可憐さ、その婚約者、ジェルクール伯爵役に扮した咲城けいのいかにも軍人らしい鷹揚な雰囲気、それぞれが的確で舌を巻いた。

 

ヴァルモンの従者アゾランの聖海由侑はじめ召使の泥棒トリオ、風雅奏、琴峰紗あら、海咲圭らの若手陣も元気溌剌としたところを見せていて舞台を彩った。

 

ショー「Gato Bonito‼」は望海風斗時代の2018「凱旋門」と同時上演された猫をテーマにしたラテンショー6年ぶりの再演。こちらも朝美独特の目力が様々な猫に乗り移り、優雅でありながらワイルドな猫の饗宴を繰り広げた。

 

朝美、夢白を中心としたプロローグの後、縣千をフィーチャーした第二夜で相手役のアメリカンガールに扮した麻花すわんがコケティッシュな魅力で目を引いたほか、桜路薫、聖海、音綺みあ、希良々と雪組が誇る歌手陣が各場面で美声を聞かせてくれた。「黒猫のタンゴ」では朝美のアドリブ連発の客席降りがあるほか、中詰めのラテンの総踊りでも一階席後方までの客席降りがあっておおいに盛り上がった。

 

第七夜のキャットヴィオレンタは中塚晧平振付の野性的な場面。レビューの名作「シャンゴ」を彷彿させるアフリカンビートにあふれたダイナミックな群舞シーンで朝美が持ち味をマックスに発揮、美しいだけではなく逞しさも増した朝美の男役としての旬の魅力が炸裂した

 

次の大劇場公演「ベルサイユのばら」でトップスター、彩風咲奈が退団することが発表されており、この公演は雪組の次代を見据えての公演とみてよさそうだが、朝美、夢白の美男美女コンビはなかなかの眼福だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス413日記 薮下哲司