演劇は異例の日本物、宝塚音楽学校110期生文化祭

 

宝塚音楽学校110期生39人による文化祭が16日から3日間、宝塚バウホールで開催された。第一部が日舞とヴォーカル、第二部が演劇、第三部がダンスの三部構成で、それぞれ成績順に上位の生徒がソロパートを受け持ち二年間の成果を披露する恒例の発表会だ。コロナ禍後期の20224月の入学で、倍率は17。まだマスク越しの入学式だった110期生。諸事情で一人欠けて39人となったが、学校関係者によると「近年になく息があった気持ちのいいクラス」とかで、17日昼の部を観劇したがそんな温かい雰囲気がにじみ出た好舞台だった。

 

冒頭の黒の紋付、緑の袴に銀の扇を持って舞う「清く正しく美しく」は、広瀬エレナさんの透き通った美しいソプラノのソロからスタート。今西葵衣さんが歌い継いで、田良結芽さんの舞のソロにつないだ。田良さんは110期生の首席で娘役。元雪組娘役トップ、舞風りらに似た雰囲気の持ち主で、可憐だが芯のあるキリッとした美しさが印象的。

 

予科性40人のコーラスに続くヴォーカルは、まずクラシックから。男役歌唱で首席の田渕蓮華さんがオペレッタ「微笑みの国」から「君はわが心のすべて」田良さんがオペラ「トスカ」から「歌に生き、恋に生き」を熱唱した。田渕さんのよく伸びる低音が耳に心地いい。

 

続くポピュラーヴォーカルは「ザ・レビュー」から「アイ・ラブ・レビュー」を皮切りに宝塚ヒットソングメドレー。広瀬さんが「薔薇の封印」から「私のヴァンパイア」工藤すず奈さんが「テンダーグリーン」から「心の翼」永野春陽さんが「小さな花がひらいた」から同名主題歌と「もう涙とはおさらばよ」を、「ラムール・ア・パリ」から「白い花がほほえむ」を今西さんが、田良さんが「凱旋門」から「雨の凱旋門」そして田渕さんが「誰がために鐘は鳴る」から「幸せの鐘の鳴る日」をソロで披露。田良さん、田渕さんはいわずもがなだったが広瀬さんの「私のヴァンパイア」が感情のこもった好唱だった。一方、「エンター・ザ・レビュー」を南凛さんと歌った中村天音さんの明るい笑顔が印象的、彩風咲奈を思わせる甘いマスクのアイドル的雰囲気横溢でスター性を感じさせた。

 

第二部の演劇は「吉野山・雪の別れ」(谷正純脚本、演出)という鎌倉時代初期を背景にした日本物。長年、文化祭をみているが演劇で日本物、それも時代物が取り上げられたのは初めて。本格的な日本物の上演が少なくなっている現在、110期生たちの果敢な挑戦は意義深い。

 

兄・源頼朝に追われ、京の都から吉野山に逃げ堕ちた源義経だが、そこにも追っ手が迫り、逃亡を余儀なくさせられる。義経とその家臣たちの信頼と忠義を描いた感動作だ。

 

A組、B組と配役が変わり、17日昼はB組の出演。源義経が中村天音さん、静御前が田良さん、忠臣の佐藤忠信を工藤さん、その許嫁の阿沙黄(あさぎ)を広瀬さん、武蔵坊弁慶を南さんというところが主要な配役。ほかに一行を助ける吉野の村民、源兵衛が田渕さん、くぬぎを小松杏奈さんが演じた。

 

義経役の中村さんのりりしい美丈夫ぶりがなかなかのもの。義経役ということもあるが、セリフの発声がまだ男役になりきっていない感じだったが、口跡はいいので今後がおおいに楽しみな存在ラストシーンは客席降りもありその堂々とした姿に未来のスターが透けて見えた。

 

芝居的には忠信役が一番重要な役どころで工藤さんの芯のあるしっかりとしたセリフ回しとともに幕切れを感動的に締めくくった。くぬぎ役の小松さんの芝居心のある演技も印象的だった。全体的には出演者全員やや力が入りすぎて、セリフが声高になりすぎて、見ている方も疲れたが日本物の習得は何物にも代えがたいものになったと思う。

 

第三部のダンスは、突出したダンシングスターがいないからか、群舞が中心でプログラムを見ても誰がどこで踊っているのかよくわからない。それだけにどの場面もパワフルでエネルギッシュ。第5のバレエ。すみれの花咲く部屋の場面で、ノーブルで素敵な男役がいたのだが、ヴォーカルにも演劇(B)にも名前がなくプログラムを見ても確認できなかったのが残念だった。

 

ちなみに演劇のA組配役は、義経が山本ゆり、静御前が溝口薫子、忠信が橋本実貴、阿沙黄が御子柴凛々子、弁慶が湯浅純礼の皆さん。

 

110期生39人は、このあと卒業式を終え、330日から宝塚大劇場で上演される月組公演で初舞台を踏むことになっている。

 

 

©宝塚歌劇支局プラス218日記 薮下哲司