©️宝塚歌劇団

 

 

月組彩海らバウ初主演「Golden Dead Schiele開幕

 

 月組の次代の期待を担う彩海せらが主演したミュージカル「Golden Dead Schiele(ゴールデン・デッド・シーレ)(熊倉飛鳥作、演出)が24日、宝塚バウホールで開幕した。20世紀初頭、若くして夭折した孤高の天才画家エゴン・シーレの半生彩海が丁寧に表現説得力のある作品に仕上がった。

 

オーストリアの名門、鉄道の重鎮を父に持ち、将来を嘱望されていたエゴンだったが親の反対を押し切って画家の道に進んだものの独自の画風を確立できず、放浪の末やっと見出した死と乙女」の完成直後に病死する。

 

エゴン・シーレの舞台化と聞いた時は、またまた暗い話で、堪忍してよという第一印象だったが、自分本位としか見えないエゴンの行動が彩海のピュアな個性でかなり融和されていて、決して明るい話ではないが、自分の信念を貫き通した若者のエネルギーのようなものがストレートに伝わった。熊倉演出も、デビュー作の「ベアタ・ベアトリクス」(2022年星組)より話の運びが随分スムーズで洗練された感があった。音楽に太田健と多田理沙と二人の名前があるが、主題曲が久々に耳に心地よく、その効果も大きい。

 

彩海は、どちらかというと小柄な男役だが、役の理解力と細やかな演技が、それを感じさせず、脇で目立つというよりセンターでさらに輝く天性の主役タイプのようだ。雪組時代に「壬生義士伝」で新人公演初主演したころはまだ青い果実のようだったが、ここへきて大きく花開いた感がある。エゴンは貧乏画家とはいうものの裕福な家庭の出身であり、ややもすると我儘な放蕩息子的な青年になるところを若き芸術家の苦悩として見せ切ったところが好もしかった。セリフや歌のトーンもなめらかですっきりした印象。

 

相手役の白河りりは、先輩画家クリムトから紹介されるモデルのヴァリを演じた。すでに「アイアムフロムオーストリア」新人公演でヒロインを務めているが、バウは今回が初めて。

芸名の響きから雪組のトップだった白羽ゆりを想起させ、気のせいか実際雰囲気もよく似ている。かなりきわどい役で、その辺は微妙に宝塚バージョンになっているがどちらともとれるようなあいまいさが何ともいえない色香を醸している。コードの厳しかった昔の映画を見ているような感覚だ。歌唱の力強さが頼もしい。

 

 エゴンに大きな影響を与える画家クリムト役は夢奈瑠音。いまやすっかり中堅、ベテランの域に達した感があり、最近では「デステイクスホリディ」のエリック役がグッドジョブだったが、今回はそれを上回るおいしい役で、初主演の彩海をサポートした。甘いマスクに濃い髭という風貌にも違和感なく貫禄のような余裕さえ見えた。フィナーレの燕尾服のダンスはセンターで登場、芝居とは打って変わった華やかな舞台姿を見せてくれた。

 

 物語の発端を担うナレーター的な記者レスター役の英かおと、エゴンの死を予感させる影の役が彩音星凪、エゴンの絵画仲間アントンが瑠皇りあ、同じくマックスが七城雅というところがそのほかの重要な男役メンバー。舞台の全体を仕切る役目を担った英の手堅い演技、彩音は動きの大きなダンスで魅せた。瑠皇、七城は適材適所といったところ。

 

娘役は、エゴンと不幸な結婚をするエディトに花妃舞音が扮して後半から登場。難役を品よく演じた。タヒチ出身の歌手モア役の羽音みかも雰囲気をよく出していたあとエゴンが少女誘拐の嫌疑をかけられるきっかけとなるタチアナに扮した彩姫(あやひめ)みみの透き通った歌声が印象的。若手男役では涼宮蘭奈の明るい笑顔に原石の輝きが見えた。

 

©宝塚歌劇支局プラス127日記 薮下哲司