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柚香×星風コンビで29年ぶりに甦った花組公演「二人だけの戦場」開幕

 

「フィレンツェに燃える」に続いて花組の柚香光と星風まどかコンビによる旧作発掘シリーズ第二弾?ミュージカル・ロマン「二人だけの戦場」(正塚晴彦作、演出)が29日、梅田芸術劇場メインホールで開幕した。先の「フィレンツェ」は47年ぶりの再演だったが、こちらも1994年、一路真輝、花總まり主演で初演されて以来29年ぶりの再演となるドラマチックなミュージカル。バウホール公演だったものが大劇場で再演されるという珍しいケースでもあり注目の公演となった。

 

「二人だけ‐」は、1990年代初頭のユーゴスビアをイメージした架空の連邦国家を舞台に、連邦国家存続の理想に燃えるエリート士官が、赴任先の少数民族の娘との恋を通して、理想と現実の狭間で苦悩する姿を描いた正塚氏書き下ろし全体を法廷劇の体裁をとるという宝塚らしからぬ野心的な展開で、内容的にもロシアによるウクライナ侵攻が泥沼化する現在、生々しい題材でなかなかタイムリーな再演。

 

一方、この作品は雪組の娘役トップだった紫とも退団後、星組から一路の相手役として迎えられた花總との大劇場公演前のプレお披露目公演の演目で、和央ようかと花總の運命的な出会いとなった伝説的作品でもある

 

柚香、星風コンビによる今回の再演は、小劇場から大劇場での公演になったことでの細かい変更はあるもののセリフも展開もほぼ初演通り。もともと歌の人、一路のための書き下ろしなので歌が中心、内容ややハードだが、二人のコンビの集大成とでもいえるような濃いラブストーリーで、熱いセリフの応酬に息が詰まるほどの緊迫感が漂ったただ、エリート士官の物語なので、柚香が常に紺色や純白のりりしい軍服姿で登場、男役の美学をふんだんに披露するがビジュアル的には最大のみどころだ。

 

 

柚香扮するシンクレアは、連邦国家存続の理想に燃えるが、時代の潮流には逆らえず、自治州は次々に独立していき、本人は上官殺害の罪で被告となるという、八方ふさがりの展開だが、救いのあるラストシーンは心が和。ドラマとしては、押さえつけられた少数民族が独立のために立ち上がるという方がドラマチックな高揚感が出ると思うのだが、逆の立場を主人公にしたのがこの作品のミソ。正塚氏には「ホテルステラマリス」という、老舗ホテルを整理する男を主人公にした作品があって、守ろうとする方を主人公にした方が共感できるのにと思ったことをふと思い出した。

 

シンクレアに扮した柚香は、得意のダンスを封印、歌と芝居で勝負、国に奉仕する報われない主人公を丁寧に演じた。士官学校時代の純白の軍服姿が特によく似合った。星風扮するロマの娘、ライラに一目ぼれ、きっかけを作って近づいていくあたりは正塚タッチそのものだが、自然な雰囲気よく出し、切ない恋心を吐露しあう後半のラブシーンは息もつかせぬ緊張感を生み出していた回想の戦闘シーンで銃を持って踊るダンスがあるが、ここはさすがの動きで魅せた

 

星風扮するライラは、横暴な態度に慣れている士官から思わぬ優しい態度をとられて、次第にシンクレアに好感を持っていく様子を正塚流そのまま自然体で演じ、「二人だけの戦場」という題名にふさわしいリアルでありながら切なくロマンチックな雰囲気を盛り上げた。エピローグ鮮やかな変身ぶりも見事だった

 

初演で轟悠が演じたシンクレアの親友クリフォードは永久輝せあが演じ、柚香扮するシンクレアに忠告やアドバイス、弁護士まで担当する大役を柚香と互角になんら違和感なく演じ切った。ただ、水美ならどうだったろうかと思うと相棒感がまだ地についていなくてどこか物足りない感じもした。今後に期待というところだろうか。

 

和央ようかが演じたライラの兄アルヴァは希波らいとが起用され、長身を生かした大きな動きで魅せた。旅芸人のダンサーだがテロ集団のリーダー的存在として軍隊がマークする存在という設定で、妹の恋人であるシンクレアを敵でありながら助けようとする非常においしい役。星風とのデュエットダンスもダイナミックで見栄えがした。

 

ライラの父でシンクレアが赴任するルコスタ州の議会議長シュトロゼックの高翔みず希、シンクレアの上官ハウザー大佐役の凛城きらの二人の専科が要をがっちりとまとめ、ハウザー大佐と対立するクェイド少佐役の航琉ひびきが、芯の通ったぶれない演技でこの舞台に大きな厚みを加えた。検事役を務めた峰果とわの口跡のよさも称賛したい。

 

羽立光来扮する古参兵ラシュモア軍曹役と朝葉ことの扮するライラの親友エルサ役はシンクレアとライラあわせ鏡のようなコンビになっていて、実力派二人のソロのデュエット聴きものだった。星組から花組に帰ってきた綺城ひか理は物語の発端となる事件にかかわる荒くれ兵士のリーダー、ノヴァロ役その後ずっとシンクレアを恨み続けるという執念深い役。綺城のイメージではない役どころへの新たな挑戦となった。

 

内容的には今も色あせない骨太なストーリーだが高橋城作曲の主題歌が、一度聴いたら忘れられないメロディーで二人のラブシーンや祭りの場面などで何度もリフレインされ劇場を出た後も思わず口ずさめる。ここ最近の新作にはない懐かしさも感じさせるミュージカルだった。

 

©宝塚歌劇支局プラス4月30日記 薮下哲司