新人公演プログラムより抜粋転載

希波らいと、2年ぶり花組新人公演「元禄バロックロック」で主演

花組期待のホープ、希波らいと初主演による忠臣蔵ファンタジー「元禄バロックロック」(谷貴矢作、演出)新人公演(栗田優香担当)が11月30日、宝塚大劇場で開かれた。花組にとって新人公演は、聖乃あすかが主演した明日海りおのサヨナラ公演「青い薔薇の精」以来2年ぶり。忠臣蔵ファンタジーにふさわしく101期から107期生まで47人が出演。103期生の希波を中心に新人公演らしいフレッシュなステージを繰り広げた。

赤穂藩の浅野内匠頭が江戸城松の廊下で吉良上野介を切りつけた刃傷事件を発端に、赤穂浪士47人が吉良邸に討ち入り、全員切腹した事件をもとにした「忠臣蔵」は日本人なら知らないものがいない有名なお話。「元禄‐」はこの「忠臣蔵」をベースに全く新しい発想で物語を紡いだ痛快作。本公演は柚香光と星風まどかの新トップコンビ披露で、架空の人物クロノスケとキラのキャラクターはまさにこの二人のために書き下ろされたキャラクター。

今回が新人公演初主演となった希波は、177センチの長身とアイドル性豊かなマスクで早くから注目の逸材。「花より男子」でF4の一人に起用されたときからいつかは新人公演で活躍するだろうと思っていたが、再開一回目で記念すべき初主演というラッキーなめぐりあわせとなった。しかしこの公演、一見、簡単そうに見えて一筋縄ではいかないファンタジー。希波は柚香を外見からコピー、開幕早々はかなり緊張気味だったが、次第に落ち着きを見せ、難しい殺陣も完璧にこなして、最後まで立派に務めあげた。歌唱に安定感がないのが弱点だが、難しい殺陣は完璧にこなし、舞台度胸は満点、なによりいるだけでパッと明るくなる華やかな個性が強みだ。芝居はセリフもしぐさも柚香と同じなのに、ちょっとした間の取り方で舞台に隙間ができてしまう、その辺はまだまだ発展途上というところ。磨けば光る原石というのだろうか、それも含めてこれからの活躍が楽しみな存在だ。

キラ(星風)を演じた美羽愛は、バウ公演「PRINCE OF ROSES」でリチャード三世を演じた優波慧の妻役を演じて芝居心のある娘役だと感じ入り、ヒロイン役を見たいと思っていたら早速そのチャンスがやってきた。登場シーンは賭場の女将、実はコウズケノスケの隠し子という謎めいた役でこれまた難しい役どころだが、外見とは裏腹なピュアな心情をきっちりと表現、滑らかな歌声とともに好演した。

コウズケノスケ(水美舞斗)はとは侑輝大弥。「銀ちゃんの恋」で出世役のジミーを演じていて注目したばかりだったが、ここ一番でさっそく大役が回ってきた。侑輝も水美をメークから立ち居振る舞いまでお手本にして臨み、これが大成功だった。やや力が入りすぎたところもあったが熱演だった。

クラノスケ(永久輝せあ)の芹尚英の手堅い演技、タクミノカミ(聖乃あすか)の天城れいんの立ち姿の美しさも注目。クラノスケの妻リク(華雅りりか)には「銀ちゃんの恋」の小夏を好演した星空美咲が入った。ワンポイントの面白い場面だが芹尚、希波との間がいまいちかみ合わず滑ってしまったのが残念。ここは東京公演までに研究の余地ありだった。

本公演で音くり寿が快演している少年将軍ツナヨシはやはり娘役の愛蘭(あいら)みこが演じ、音そっくりに演じてこれも見事だった。家臣のヨシヤス(優波慧)を演じた太凰旬の堂々とした立ち居振る舞いも印象的。もうひとつ娘役のおいしい役くノ一のカエデ(美羽)は都姫ここ、ツバキ(星空)は稀奈ゆい、都姫の可愛さが際立っていた。

花組にとって二年ぶりの新人公演で、陣容も一気に若返り、もぎたてのフルーツのようなフレッシュさだったがそれだけに技量の未熟さも目立った。しかし、それが新人公演の良さでもあり、大きな可能性を感じさせるいかにも新人公演らしい舞台だった。

©宝塚歌劇支局プラス12月1日記 薮下哲司