©️宝塚歌劇団

真風涼帆、潤花主演、宙組全国ツアー公演「バロンの末裔」開幕

真風涼帆、潤花主演による宙組公演ミュージカル・ロマン「バロンの末裔」(正塚晴彦作、演出)とショー・トゥー・クール「アクアヴィーテ‼‐生命の水‐」(藤井大介作、演出)全国ツアー公演が、21日、梅田芸術劇場メインホールで開幕した。大阪をスタート地点に九州、沖縄を回るイレギュラーな公演で、会場には首都圏からの遠征組が大挙押し寄せた。

「バロン‐」は1996年から97年にかけて、当時月組のトップスターだった久世星佳のサヨナラ公演として上演された正塚氏のオリジナル。20世紀の初頭のスコットランドを舞台に由緒ある男爵家に生まれた双子の兄弟が主人公の物語。兄ローレンス(真風)の不始末で破産状態に追い込まれた男爵家を軍人の弟エドワード(真風二役)が立て直しに奔走するストーリーを軸に、ローレンスの婚約者キャサリン(潤)とエドワードとのストイックな三角関係を横軸に描いていく。没落する貴族と台頭する新興勢力の対比に、兄弟が同じ女性を愛していたという、ドラマの二大定番をドッキングさせた欲張りな設定。ただ兄弟をトップスターが二役で演じることからどちらと結ばれてもファンは納得という不思議な展開。もともとサヨナラ公演として企画されているので、後半はサヨナラモード一色になっていくのに違和感があるものの、高橋城作曲による耳に心地よい主題歌や、スコットランドの田園風景の装置(美術大橋泰弘)が効果的で、貴族的なノーブルな雰囲気がよく似合う真風にはうってつけの題材だった。

真風は何事にも悠長で鷹揚なローレンスと理知的で行動的なエドワードを巧みに演じ分け、謎の早変わりもあってほぼ出ずっぱりの活躍。キャサリンの潤も、ローレンスとエドワードという二人の幼馴染の兄弟の間で揺れる女心を繊細に表現、雪組時代に比べると少しの間にずいぶん大人の雰囲気を身につけたなあという印象。真風との相性も非常にいい。

初演で真琴つばさが演じた軍人仲間のリチャードを桜木みなと。姿月あさとが演じた銀行の二代目頭取ウィリアムに瑠風輝。明るいコメディリリーフ的なリチャードを桜木がおちゃめに演じ、ウィリアムに扮した瑠風は持ち前の歌唱力に物を言わせた。この物語の一番の鍵がこのウィリアムの裁量で、いまどきの銀行マンならこんな甘くはないはずで、その辺がドラマの骨格として弱いところだ。

あと亜音有星が扮した庭師の息子ヘンリーがもう一つのカギを握るいい役で、亜音もはつらつと演じていて印象的だった。妹レイチェル役の栞奈(かんな)ひまりも人見知り感がよくでていた。

娘役ではリチャードの婚約者ヘレンの山吹ひばりが、また新たなコミカルな面を見せてくれた。ベテラン勢では寿つかさが執事役、専科入りして初の出演となる凛城きらがウィリアムの父親トーマス役で貫禄の演技を見せた。


「アクア‐」は、一昨年「イスパニアのサムライ」と二本立てで上演されたショーで。ウィスキーをテーマにした全編ほろ酔いのレビュー。ウィスキーをイメージしたゴールドの衣装を着た真風がグラス片手にかっこよく歌い踊るプロローグが何だか懐かしい。星風まどかのところに潤が入り、芹香斗亜のところに桜木、桜木のところに瑠風が、和希そらのところに鷹翔千空、英真なおきが寿つかさ、寿が凛城というふうに少しずつ役替わりがあるほかは、中身はほぼ同じ。人数が少なくずいぶんコンパクトなショーに仕上がった。真風、桜木、瑠風がグラスをもって客席にむかって乾杯する場面は公演地によってセリフが変わるようでその辺も見どころだろう。

パレードでは二番手羽を背負った桜木と潤の間に凛城が下りてきて一瞬、誰かわからずびっくりしたが凛城とわかって納得、初日あいさつでも寿組長から凛城の専科入り初出演の紹介があった。真風は「こうしてお客様の前で舞台に立てることの幸せをかみしめて、九州、沖縄の皆さんに宝塚の魅力をお伝えしたい」と挨拶、総立ちの客席を前に「アクアヴィーテ!(カンパイ)」して幕を閉じた。

©宝塚歌劇支局プラス11月22日記 薮下哲司