©️宝塚歌劇団


彩風咲奈、魅力のオーラ、雪組「ハリウッド・ゴシップ」大阪公演開幕

雪組の人気スター、彩風咲奈を中心としたミュージカル・スクリーン「ハリウッド・ゴシップ」(田淵大輔作、演出)大阪公演が23日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで開幕した。神奈川公演を好評裏に終えての大阪入り、作品のクオリティーの高さもさることながら彩風ほかの出演者の充実ぶりが際立ち、見ごたえ十分の舞台だった。

「ハリウッド・ゴシップ」は、1920年代、サイレント映画全盛期のころのハリウッドが舞台。宝塚でも舞台化された「雨に唄えば」とほぼ同じ時代が背景だ。日本式に言うと大正の終わりごろから昭和初期にかけての物語で「モン・パリ」が上演されてレビューがブームになっていたころである。

主人公は、映画スターを目指しながら一向に芽が出ないエキストラ、コンラッド(彩風)。、当時の華やかなハリウッドの風景を映したニュースフィルムを映し出した後、舞台は、スタジオの一角で、コンラッドがこれを最後にと新人発掘を謳うトーキー映画のオーディションに挑む場面から始まる。舞台中央のディレクターズチェアにスポットライトが当たるとそこにオーディションを受けている彩風コンラッドが座っている。いくつかの簡単な質問のあと「帰っていい」といわれ「まただめか」と落胆するコンラッド。彩風の表情がずいぶんすっきりとしていて別人のようだが、華やかな中にもちょっとしたしぐさに陰りのようなものが見え隠れして、いきなり見る者のハートをぐっとつかみ取った。

結局、そのオーディションはプロデューサー(夏美よう)の話題作りで主演は最初から若手スター、ジェリー(彩凪翔)に決まっており、ジェリーは自分が見つけた素人娘をヒロインにしないと出演しないとわがまま放題。事実を知ったコンラッドは重役室に駆け込むが、そこで出会った往年の大スター、アマンダ(梨花ますみ)に見込まれて、スター教育を受けることになり…。ビリー・ワイルダー監督の「サンセット大通り」はじめさまざまなハリウッドの内幕ものにインスパイアされたようなストーリーが、展開していく。

彩風は、華やかな容貌と恵まれた長身のうちに潜む陰りのような個性を最大限に生かすことができる適役に巡り合い、轟悠の巧さと真琴つばさの華やかさをミックスしたような新たな男役像を作り上げた。彼女のこれまでの宝塚生活の中で最も記憶に残る作品となるだろう。

相手役の潤花は、ジェリーが抜擢したヒロイン、エステラ役。コンラッドがふと入ったダイナーズのウェイトレスだった。大きな映画のヒロインに決まっているにもかかわらずまだウェイトレスをしている彼女に自分とは違った映画への愛を感じたコンラッドは急速にエステラに惹かれていく。潤は「ひかりふる路」と「凱旋門」とすでに二度新人公演でヒロインを演じている102期生。可憐な風情のなかにも芯のある演技で期待値が高い。今回は彼女のそんな雰囲気がうまく生きていて、特に後半、勘違いしたコンラッドを軌道修正する場面の渾身の演技が見る者の心に強いインパクトを与えた。

我儘な若手スター、ジェリーに扮した彩凪も、彼女の本来持っている華やかな個性を巧みに引き出すことができた適役好演。少々嫌味な役だが、それなりに理由づけもあって傍若無人な我儘ぶりもそれほど気にならなかったのは彩凪本人の人柄のせいかも。

ほかに悪徳プロデューサー、夏美と大女優アマンダの梨花は、この二人がいるのといないのでは舞台の厚みが変わるほど重要な役どころ。ベテランの味をいかんなく発揮した。

脇ではゴシップ紙のコラムニスト、キャノンの愛すみれ、映画監督役の真那春人、助手の諏訪さき、コンラッドのエキストラ仲間の煌羽レオ、縣千、眞ノ宮るいといったところが目立つ役だが、ダイナーの女主人を演じた早花まこが登場するたびに爆笑を生むいいキャラクターだった。

フィナーレのショーが、照明、衣装など非常にあか抜けていて、いい舞台を見終わったあとの素晴らしいカタルシスになっていたことも付け加えたい。

©宝塚歌劇支局プラス10月26日記  薮下哲司