新人公演プログラムより

 

 

聖乃あすか、美少年エドガーで初主演「ポーの一族」新人公演

 

花組期待の男役スター、聖乃あすかが初主演したミュージカル・ゴシック「ポーの一族」(小池修一郎脚本、演出)新人公演(田淵大輔担当)が23日、宝塚大劇場で行われた。今回はこの公演の模様をお伝えしよう。

 

永遠に生きることを運命づけられたバンパネラの美少年エドガーの愛と苦悩を描いた「ポーの一族」。花組トップ、明日海りおのためにあったような原作を、小池氏が渾身の舞台化、独特の世界観を宝塚に現出させた。明日海しかできないと思われた当たり役エドガーを新人公演で演じたのは、研4の美形スター、聖乃あすか。どんなエドガーを見せてくれるか満員の観客が見守る中、そのさわやかな演技とすっきりとした美貌で明日海とはまた違った初々しいエドガーを見せ、初主演というプレッシャーをはねのけて大健闘した。周囲を固めたメンバーも聖乃をしっかりと盛り立てて、なんとも気持ちのいい新人公演だった。

 

1本立て公演の新人公演の例に習って、今回も大幅なカットがあり、一幕プロローグのあとは一気に港町ブラックプールのホテルの場面まで飛び、その後はほぼ本公演通りに進行、一幕と二幕のつなぎの部分で聖乃エドガーの「哀しみのヴァンパイア」のソロをはさみ、フィナーレをカットして約1時間40分に収めた。ということはエドガーとメリーベルの幼少時代、さらにエドガーがバンパネラになるいきさつの部分をばっさりとカット、なかなか潔い大胆な展開。プロローグでそれまでの展開をダイジェスト的に見せていることやバンパネラ研究家たちの説明台詞を追加しているので、ストーリーとしてはそれでも十分。いっそすっきりとしてずいぶん見やすかった。

 

エドガーの聖乃あすかは、「はいからさんが通る」の蘭丸役が記憶に新しいが、早くからその美形ぶりが目立っていて、今回のエドガー役は、万人納得の起用。さびしげな瞳とすらりとしたプロポーションは、本役の明日海に優るとも劣らない原作漫画の再現率。台詞や身のこなしがぎごちなくても少年という設定なのであまり気にならなかった。とにかくビジュアルが美しく、男役としては非常にいい資質を持っている。課題は歌唱だが、これは今後の課題として、これからもしっかり見守りたい。

 

エドガーの義母にあたり、エドガーの憧れの存在であるシーラ(本役・仙名彩世)は、城妃美伶。早くから本公演でも大きな役に起用され、新人公演のヒロインも星組時代を含めて4度、「はいからさん―」ではヒロインの親友役を好演するなど着実に成長、新人公演ヒロイン5度目となる今回は主人公の憧れの女性という大役であり難役を、初主演の聖乃をしっかりとサポートしながら華やかに演じた。歌の表現力の充実も著しい。本公演では、この作品唯一のコメディリリーフ的存在であるマーゴット役をハツラツと演じており、いままさに輝いている。

 

アラン役(柚香光)は前回の新人公演で主演を演じた飛龍つかさ。原作漫画のイメージとは違うが、飛龍独特の丁寧な台詞と芝居が生きて、繊細なアラン像を巧みに引き出した。本公演の柚香が原作漫画から抜け出たようなビジュアルだけにややハンデはあるが、中身で勝負といったところ。

 

エドガーを引き取るポーツネル男爵(瀬戸かずや)に扮した綺城ひか理も、すっきりとした佇まいと落ち着いた雰囲気で大人の雰囲気をうまく出し適役好演。舞台全体をリードした。シーラに言い寄り、バンパネラであることを見破って、消滅させてしまう医師クリフォード(鳳月杏)は亜蓮冬馬。進行役を担うバイク・ブラウンには帆純まひろ(水美舞斗)が入り、いずれも好演。なかでも帆純の凛とした二枚目ぶりがうまく引き出されていた。

 

エドガーの妹メリーベル(華優希)は舞空瞳が起用された。それこそ原作漫画の再現率100%の可愛さだったが、前半部分がカットされたことから後半、バンパネラになって貧血気味で倒れる芝居ばかりで何やらかわいそうだった。

 

一方、本公演でメリーベルを演じた華は、バンパネラ研究家マルグリット(華雅りりか)にまわったが、理知的な科学者役を器用にこなし印象的だった。娘役はほかに音くり寿がマーゴット役、春妃うららがクリフォードの婚約者ジェイン(桜咲彩花)を演じたが、春妃の上品な美貌がさえた。男役ではホテル支配人アボット(和海しょう)の龍季澪の堂々とした突き抜けたソロが心地よかった。台詞が歌になっている曲が多く、全体的には歌の実力をさらに磨いてほしいとは思ったが、初主演の聖乃を全員で盛り立てている、そんな花組の温かい雰囲気が舞台の隅々から感じられる公演だった。

 

©宝塚歌劇支局プラス1月25日記 薮下哲司

 

 

 

 元専科の箙かおるさんと薮下(1月24日、毎日文化センターにて)

 

◎…昨年12月14日付で退団した元専科の箙かおるさんが、24日、毎日文化センター(大阪)の「宝塚歌劇講座」のゲスト参加、退団にいたる経緯や退団後の近況、ご自身の宝塚愛をたっぷり語ってくださいました。退団発表が、退団の三日前という急な発表になったことについては「退団は早くから決まっていましたが、周囲がいろいろ気遣っていただくのがいやでぎりぎりにしました」と箙さん。当日に行った宝塚ホテルのサロンコンサート「夢の扉」で「これまでの思いをすべて出し切ったので悔いはありません」とも。コンサートでは質素な黒燕尾、袴、そしてドレスで歌い「45年間の宝塚生活に別れを告げました」とさばさば。

長年の宝塚生活の中での思い出深い役は「鶯歌春」の少年役はじめ数多いが「ショウボート」で「オールマン・リバー」を歌えたこと(この歌を女性が歌ったのは箙さんだけ)と「グランドホテル」初演のヘルマン社長役、「ささら笹舟」の織田信長役、そして「王家に捧ぐ歌」のファラオが特に印象に残っているとのこと。最後の公演となった「鳳凰伝」のテムール王も「初めての役どころだったので勉強になった」といつまでも謙虚だった。退団して「なんとなくすっきりした感じ」

といい、今後も師範の免状を持つ日舞はじめ何らかの活動をしていきたいとのことで、とりあえず4月5日に東京ヤマハホールで開かれるシャンソンコンサートへの出演が決まっている。