宝塚歌劇100周年最後を飾ったタカラヅカスペシャル
2014タカラヅカグランプリは「前田慶次」×壮一帆

宝塚歌劇100周年の掉尾を飾る「タカラヅカスペシャル2014 Thank you for 100years」(石田昌也監修、構成、演出)が、12月20日から22日まで宝塚大劇場で華やかに開かれた。22日には東京宝塚劇場との同時中継により月組も参加して5組そろってのスペシャルが実現、100周年にふさわしい華やかさとなった。今回はこの模様と「第1回タカラヅカグランプリ」(毎日文化センター・宝塚歌劇講座選出)の結果を報告しよう。

轟悠を中心に明日海りお、早霧せいな、柚希礼音、凰稀かなめの各組トップが大劇場に勢ぞろいした「タカラヅカスペシャル」は、100周年の最後とあって100年の名曲を100曲歌い継いでいこうという欲張った企画。前半が初演の「ドンブラコ」から「霧深きエルベのほとり」の主題歌「鴎の歌」までの50曲、後半が「世界はひとつ」から「ポップニュース」の主題歌「愛!」まで。
これに恒例の各組の2014年を振り返る爆笑パロディーが挿入され、月組が参加した22日は約3時間半の長丁場のスペシャルとなった。

轟はじめトップ4人と出演者全員が「モン・パリ」を歌いながらパレードするオープニングからさすがに華やか。東京宝塚劇場に龍ら月組メンバーも中継で参加、龍が元気にあいさつして、100周年ならではのスペシャル感を盛り上げた。ただ東京と大劇場の中継回線の音声が微妙にずれ、呼びかけの言葉がこだまして会場からは失笑の声が、以後も回線がつながるたびに映像と音声がずれて豪華共演に水を差した。技術的に仕方のないことだと思うが改善の余地ありだ。

それはさておき、2年ぶりのタカラヅカスペシャルということで出演者もファンもボルテージは上がりっぱなし。轟とトップ5人のMCのあとに始まった恒例の各組パロディーも2年分一気に盛り込む組もあっておおいにわいた。進行役は専科の北翔海莉と華形ひかる。「ノバ・ボサノバ」のルーア神父とシスター・マーマに扮した二人が「あれはなんですか」と客席を見下ろすと、星組の壱城あずさ、天寿光希、礼真琴が劇場案内係で客席に登場。病気休演した紅ゆずる不在をギャグにするなどのっけから爆笑の連続。「紅(べに)先輩は次回大劇場公演には帰ってこられます」と結んで大きな拍手。そこから星組による「眠れない男」がスタートするという段取り。もちろん100周年の幕開きを飾った「眠らない男ナポレオン」のパロディー。舞台では柚希扮するナポ礼音が、演出家の厳しい注文に頭を抱えるという趣向。天寿が小池修一郎氏に扮するなどお遊び満載。おおいに笑わせた。
続く宙組コーナーは「レット・バトラーのモンテ・クリスト伯」。まず北翔と華形が喪服姿のスカーレットで登場、凰稀と朝夏まなとがレット・バトラーの裏表に扮して大爆笑の一コマ。

東京からの中継となった月組は「明日へのME&MY GIRL」。ビルとサリーに扮した龍と愛希が「明日への指針」の船上に現れてひと騒動。「ガイズ&ドールズ」も飛び出すなかなかの大作。一日だけの参加とあってどの組より長めだった。

休憩をはさんで雪組は早霧が坂本龍馬に扮して「龍馬どこへいく?」。早霧扮するぼさぼさ頭の龍馬が剣をぬいて戦うたびにタイムスリップ現象が起こり「伯爵令嬢」や「パルムの僧院」の世界に行ったり「星影の人」も登場して、ちゃっかり博多座公演のPRも。「Jin」をベースに日本物にこだわる雪組のカラーが鮮明にでていて好感がもてた。ここでは北翔は勝海舟で登場。土方と華形をひっかけたギャグで笑わせた。

花組は明日海が上杉謙信に扮しての「不思議の国の上杉謙信」。昨年の「戦国BASARA」と「エリザベート」「虞美人」さらには「アリスへの招待状」などもミックス、謙信が白い被り物を探して奔走するという趣向。花乃まりあが虞美人に扮した。

100周年メドレーでは夢咲ねねが「エリザベート」から「私だけに」をワンフレーズ歌ったのがうれしかった。月組時代の新人公演でエリザベートを演じ、いつかは本公演でもあるだろうと思っていたのだが、結局かなうことなく退団してしまうので、よけいに感慨深かった。来年の東宝版「エリザベート」のエリザベートは花總まりと蘭乃はなのダブルキャストだがいずれは夢咲のエリザベートも見たいものだ。退団後の活躍に期待したい。

次期トップが決まっている朝夏はじめ2番手以下の扱いが退団者も含めて全員並列だったり、若手メンバーの人選にも各組ばらつきがあって、いまいち101年以降のビジョンがみえにくいラインアップ。どこからもクレームをつけられないようにあたりさわりのない序列に終始した。今後の劇団方針がそのまま舞台にもでているようだった。

さて毎日文化センター(大阪)は、「宝塚歌劇講座」受講者(23人)の投票による「宝塚グランプリ」を24日、選出した。
結果は次の通り。
最優秀作品賞 雪組公演「前田慶次」
最優秀主演男役賞 壮一帆(「前田慶次」「心中・恋の大和路」)
最優秀主演娘役賞 蘭乃はな(「エリザベート」ほか)
最優秀助演男役賞 北翔海莉(「エリザベート」ほか)
最優秀助演娘役賞 純矢ちとせ(「SANCTUARY」ほか)
最優秀新人賞 月城かなと(「前田慶次」新人公演ほか)
最優秀再演賞 「エリザベート」(花組公演)
最優秀演出家賞 大野拓史(「前田慶次」の成果)
最優秀主題歌賞 該当なし
最優秀振付賞 星組公演「パッショネイト宝塚!」のカポネイラの場面(森陽子)
特別賞 雪組公演「前田慶次」の松風(馬)

★選考経過★
最優秀作品は圧倒的支持で「前田慶次」に。主演男役賞は「眠らない男ナポレオン」などの柚希礼音と接戦の末、1票差で壮に決定。主演娘役賞も夢咲ねねと接戦だったが最終的に蘭乃に。助演男役賞は宙組の緒月遠麻が「翼ある人々」「白夜の誓い」で大健闘したが1票差で北翔が制した。新人賞は「PUCK」新人公演で好演した朝美絢、「白夜の誓い」新人公演主演の桜木みなと、「前田慶次」新人公演ヒロインと「伯爵令嬢」で好演した有沙瞳の名前が挙がったが、「前田慶次」新人公演で好演した月城かなとが圧倒的な支持を集めた。演出家賞は「エリザベート」など新旧3本あった小池修一郎が最有力とみられたが「前田慶次」の大野拓史にまんべんなく票が集まる意外な結果となった。「翼ある人々」の上田久美子への得票も多く、新しい才能への期待がうかがえた。振付賞に「100人のラインダンス」と主題歌賞に「百年音頭」が上がったのが100周年らしい選考だったが、受賞には至らなかった。

最終的に「前田慶次」が特別賞をふくめて5部門を制覇する快挙をなしとげた。なかなか妥当な結果だと思う。101年もさらに楽しませてくれる作品、スターが生まれること期待したいものだ。ではよいお年を。新年は雪組公演「ルパン三世」の報告からスタートします。お楽しみに。

それでは、皆様、良いお年をお迎えください。

©宝塚歌劇支局プラス 12月27日記 薮下哲司