21世紀も30年をへて、初めて旅客機に乗る機会を得た。
新入社員研修の一環として、ニューヨークを訪れることになったからだ。
全日本安全航空の1200人乗り特大ジャンボ機は、東京からニューヨークまで5時間ほどで到着する。
飛行場に着いたら、これから搭乗するZNS・606AIの機体のデカさに、驚いた。
まるで空母に羽をつけたみたいだ。
「これが空を飛ぶんだね」
研修をともにする、同じ部署に配属された横田くんにいうと、せせら笑われた。
「旅客機が空を飛ばなきゃどうすんのさ」
搭乗者が、長蛇の列を作る。
「乗るの、初めてなんだ」
告白すると、横田くんはいった。
「じゃあ、空から地球をながめるのも?」
「うん。きれいなんだってね」
「そりゃもう。寝てなんかいられないよ」
機が空に浮かび上がった。
思ったよりずっと静かでスムースだ。
機内アナウンスが流れる。
「みなさま、ご搭乗ありがとうございます。機長の606です。まもなく無重力圏内に入ります。シートベルトをお確かめ下さい」
横田くんにきいた。
「機長の名前が606だって」
「え。知らなかったの」
そのとき、機体がいきなり激しく揺れた。
「どうしたんだろう」
「さあ……」
揺れがなかなか収まらない。
機内にざわめきが広がっていく。
アナウンスが流れる。
「みなさま、ご搭乗、みなさま、ご搭乗、みなさま、ご搭乗、みなさま……」
横田くんが白い顔をして、いう。
「全自動操縦だから。人間の機長は乗ってないんだ、この旅客機」