やっとたどり着きましたw

 

長くなりますが、これで最後の振り返りです。

 

 

最後はもちろん、この二人を。

 

今作のヒロインであり、テーマの中心。

 

 

物語のキーマン、「無」を司る調律師(道化師)、アリス役「松永有紗」ちゃん

 

今回初参加のありさちゃん。

彼女も8月に20歳になったばかり、稽古場で2ヶ月遅れのお祝いもできたのが記憶に新しい。

 

顔合わせの日、台本をみんなで声を合わせて読むのですが、第一声目から、ありさちゃんはもう「アリス」でした。

それは僕の中で想像していたアリス像。

 

驚いて二度見しました、冗談抜きで。

そこから約1ヶ月の稽古を経て、想像を超えた、という表現よりも、そこにアリスが生きていました。

 

物語の中で、どうしていいかわからず憤る大空にアリスは言います。

 

「・・・わかった。あなたが自由に動ける範囲にいるようにするから。大空の思う感情を見つけて。」

 

そこから大空とアリスは同じシーンに出てこなくなるのですが、最後もう一度会うまで、舞台袖からずっと大空のシーンを眺めて気持ちをつないでいる姿をみて、逆に気合をもらっていました。

アリスを生きてくれて本当にありがとう。

 

 

本作の主人公であり、物語の視点となった

成瀬大空役「宇治清高」くん

 

初舞台、初主演。

その重圧をしっかりと受け止めて、最後まで大空として生き抜いてくれた。

初めてのSEPTであり、馴染むことに苦労したと思う。

いろんなジャンルの人たちが集まって一つを作る場所だから。不器用で、感情を表現することが苦手なのかと思えば、日々、一つ一つ手にしようと必死に色づいていくきよは、大空の生きていく道筋に似たものがあったように思えます。

 

劇場入りした日、キャストは1日お休みだったにも関わらず終わり頃に劇場付近に現れて一言

「お疲れ様でした!」

そう言って帰っていくきよを見て、何よりも動じない心の大きさ、器のデカさというものはこういうことかと尊敬してました。

 

大空は宇治清高その人だったのかもしれません。

最後まで精一杯生きてくれてありがとう。

 

 

【大空】

 

大空は幼い頃、施設で育っていく。

ある日、母親に連れられてたどり着いたのは見知らぬ建物。

必ず迎えにくるからと言い去っていく母親。その言葉に疑問も抱かず信じて、ただただ信じて、待ち続けた。

いつ来るかわからないその時間に口ずさむ歌は、母親がよく歌ってくれた歌。

信じてる、信じてるけど、信じていたけど、考えの行き先は現実となって、母はいつまでたっても現れることはなかった。

誰にも必要とされてない自分、まるで映し鏡のように人を信じられなくなっていく自分。

感情はやがて心を無くしていく。何が正しいかもわからない。ならいっそ、どうせ期待しても裏切られるだけだから、自分を隠して、感情を殺して生きればいいと。

からっぽの自分を「偽りの仮面」をつけることでしか、自分を保つことさえできなかった。

 

存在意義が曖昧なまま、無意識のうちに心のどこかで望んだであろう未来。求めるように、頭に鳴り響く音楽を求めるように、イベント業につき仕事をこなしていた。

 

そんな時に引き寄せられるように大空はアリスと出会う。

 

 「やっと会えた」

 

アリスは自分と同じ無の仮面をつける人をずっと待っていた。その答えを探すために。

 

何もなくなっていた大空は、アリスに無の仮面を付けられ心の闇から抜け出し、別人のように自信に満ち溢れる。まるで元々そういう人間だったかのように振る舞い出す大空。 

だが仮面をつけられたことは認識しておらず、何故ミラリオンに連れてこられたのか、理解出来ない。

 

「探し物をするために。」

 

大空はアリスと一緒に探し物を見つけるためにミラリオンを回ることになる。

"今回"のミラリオンは大空が来た事で大きくうねりを増していく。

 

様々な人や、人ではない者達と出会い、探し物はなんなのかわからないまま、無という真っ白な心に少しずつ色が足されていく大空。

 

やがてその心で、MIRRORIONの違和感にたどり着き、それぞれの集落でひとつの感情に支配されていること自体がダメなんだということを、自分の心の奥と向き合い、戦うことより、前に進むことが大事で現実世界に戻る努力をするべきだと思い始める。その大空の疑問と言葉が人々だけではなく、ミラリオンの住人にさえも響いていく。

そして大空自身もまた、自らが呼ばれたことの意味を、"存在意義"を求め始める。

 

「俺は一体何のためにここへ呼ばれたんだ?」

 

答えの出ないままドーネスと話す大空。

彼は全てを知っているかのように、ミラリオンの変化を受け止め、アリスの存在の意味を語り、そして伝える。

 

「願わくば、アリスの答えも見つけてやってくれ。」

 

「喜怒哀楽」、感情が出揃い"今回"のMIRRORIONが終わろうとしている。

 

REI「じゃあ、大空は・・・?」

シリウス「おっと、それはここからだ。」

 

本来終えるべきタイミングを超え、シリウスはアリスの行動を知っているかのようにREIの言葉を遮ると、アリスが大空以外の時間を止め問う。

 

「探し物は見つかった?」

「みんなの答えを目の当たりにして、羨ましいって、そう思った。・・・でも俺は?俺はどうしたら?」

 

出揃ったことで感情が終わりへと向かう時、アリスは「無」の仮面を取り出し、大空の記憶を呼び覚ます。

元の何もない自分に、「偽りの仮面」を”つけるしかなかった”自分へと、自信に満ち溢れていた自分とが混ざり合って、混乱し、その場から逃げ出す大空。

 

追いかけるアリスと二人になると、過去を、今を語りだす大空。そしてたどり着いた答えに戸惑い始める。

 

大空「喜びも哀しみも怒りも楽しむ事でさえも、全部揃う事でやっと人の心になる。”仮面のお陰”でなりたい自分になって、やっとわかったよ。わかったけど、今更どうしたらいいんだよ・・・。」

アリス「違うの。」

大空「え?」

アリス「この仮面を被せた時、ただ感情をリセットして白紙に戻っただけ。」

大空「・・・白紙?」

アリス「人は生きていく中でいろんな仮面を自分でかぶるの。それが積み重なって、人は変化していく。なりたい自分、それは本当の大空。まだ意識の中で仮面をつけなかった大空。」

 

自信に満ち溢れていた自分、それは偽りの仮面をかぶっていない本来の自分だった。

無の本質と向き合い、無は無であって「何も無い」という無ではなく、いわばこれから色をつけていける白紙なんだと、喜怒哀楽と言う感情を色付けしていく、ベースのようなものだと気づく大空。

喜怒哀楽のそれぞれの者も心の中の感情と向き合って、未来に希望を持ったからこそ、音楽を奏で、歌い、踊り、音楽の無限の力に心が揺さぶられ、それぞれが支配された喜怒哀楽から解放されて、閉ざされていた心の扉を開けて、無の仮面に喜怒哀楽の仮面が重なり一つになり、大空につけられた仮面が外れる。

 

一緒に答えを見つけたアリスの仮面も外れる。

 

大空 「探し物、それは自分自身が否定した本当の自分。全ての始めにある、真っさらな、感情だ。」

 

心を「無」にすることで真っ白な感情になる。

そこから、喜怒哀楽で染めて足していく。 無と喜怒哀楽と重なることで無限大にもなる。

その一歩を踏み出し、MIRRORIONから帰っていく。

 

 

 

大空とアリス。

 

二人は同じ「無」という"感情"で繋がった二人。

本来ならば、前回のMIRRORIONで消えるはずだったアリスが、自分の存在意義を見つけるために、役割を果たすために、鏡の中で待ち続けた結果、大空は招かれることとなった。

 

「感情と向き合えずに心が限界を迎えた時、このミラリオンへと迷い込む。」

 

大空もまたそこに該当したのでしょうか。

イレギュラーであるアリスの存在、ミクニ(ヴィヴィアン・ヤト)は時空の放浪者としてアリスとコンタクトを取っていたのかもしれませんね。そこでドーネス達にはバレないように少し手を貸して、MIRRORIONへと誘い、さらに無に似た感情をもつREIを同じく送り込みます。

 

それはアリスと同期である"前"楽の仮面を持っていたミクニとドーネス達が共に残してしまった問題の解決のため。

そして「優しさ」だったんだろうなと。

 

やっと出会えた大空。

アリスは”無”だというのに誰よりも感情豊かで楽しそうでした。それは自分の存在意義がやっと見つかるからなのか、終わる事を望んでいたからなのか。

人間と調律師の自己紹介の時にアリスは言います。

 

「私はアリス!大空の担当です!」

 

この言葉を言うためにどれほどの時間を待ったことか。

嬉しくてたまらなかったんでしょうね。

 

見守り、何も答えを言えない。それは調律師と同じ。

しかし、大空に寄り添い、終わりを知っているからこそ、"無"の意味を感じたからこそ、最後アリスは精一杯伝えます。

 

アリス「あなたは人との繋がりを知れた。様々な感情を知れた。『無』は真っ白って事。それなら色んな色で、感情で足していけばいい」

 

「可能性は『無限』なんだよ!」

 

ずっと、伝えたかった言葉。

自分を見つけてくれる人に、届けたかった感情。

そして、全てが揃い、アリスの"無"の仮面も外れ、答えにたどり着いた時、満足げであり、そしてどこか儚げでした。

 

本来MIRRORIONに存在しないはずの感情「無」。

調律師達もまた仮面を外し終わりへと向かいましたが、彼らには次代を担う役割が待っている。

しかし、アリスは仮面が外れて終わりを迎えた後、消えゆく定めでした。

わかっていたからこそ、ドーネスは受け入れがたく、そして尊重したのではないでしょうか。

 

 

しかし最後のシーン、大空のもとに消えたはずのアリスが現れます。

お互いがわからないようにすれ違うアリスと大空。

通り過ぎようとしたその時

 

アリス「今、楽しんでますか?」

大空 「・・・ええ、精一杯楽しんでます!」

 

 

"今回"の「MIRRORION」

それは「大空とアリス」の物語。

 

「可能性は無限」この先の答えは皆さんの心の中で完結してもらえたら幸いです。

 

「やれやれ、キセキはムコウからやってくる、か。」

 

 

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「MIRRORION」振り返り

 

これにて終了です。

 

長らくここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございました。

 

求めた答えと違うものもあったかもしれません。

でも、それは最初に書いた通り

 

「可能性は無限」

 

いろんな答えがあっていいんです。

たくさんのコメントや考察、楽しみに見ています。

いろんな考え方があっていい、それの全てが答えだと、僕は思っています。

 

 

この「MIRRORION」のテーマ「喜怒哀楽"無"」

 

本当は脚本に書いていた言葉ですが、

 

「人は心があるから人であって、心には喜怒哀楽があり、そのどれひとつも、抜け落ちる人はいない。

人は哀しみや苦しみ、怒りの感情を持ち、ましてや、妬み、嫉み、人を羨む、憎む、といった感情も持ち合わせている、その一方で、慈しみ、憐れみ、喜び、といったいわば善の感情も持っている。

 

その感情があっていい、ただそれに支配されなければ、それに固執さえしなければ、妬む時も憎む時もある、善の心ばかりで生きていることは出来ない。

いっとき、悪の心、負の感情を持っても、また善の心を自分が引き出せばいい、

いろんな感情があっていい、全部"自分"なのだから。」

 

喜びや楽しさだけでは人間の深さは作れない。

怒りや哀しみだけでも人に優しくなれない。

 

気づいた時に、人は変われる。

「人生はやり直せる」

 

五周年を迎えて、あらゆる想いを振り返りながらミラリオンを書きました。

 

SEPTのテーマの一つして「人生はやり直せる」という事を伝えてきました。

 

僕自身何度も挫折と失敗を繰り返し、仕事を変えようかと何度も思ってきました。

その度に思い直す出来事が起こってきたんです。

 

それは、嬉しいことも、腹の立つことも、悲しいことも、楽しそうって思えたことも、多種多様に。

 

観た人の心のどこかに何か残る、そんなステージもあるよって、そう思ってもらえたら幸いです。

 

 

改めまして、

 

五周年記念ステージ

SEPT Vol.8「MIRRORION」

 

ご来場いただいた皆様

 

応援してくださった皆様

 

本当にありがとうございました。

 

物語を書いたものとしての振り返りはここまで。

 

 

あとは、この作品に関わった仲間達と、"自分自身"を振り返り、僕の中での「MIRRORION」を終幕としたいと思います。