『大きなかぶ』の劇あそび〈2〉
[3]高藤君のことば、いいなあ! 自分たちでセリフをつくる
1ねん1くみ『あくしゅ』№115(1986,10,4)
国語の時間です。初めの30分を漢字練習、残りの15分を劇あそびの時間にとりました。
このあいだの授業では、動作化を楽しみました。今日の“めあて”は「セリフ」づくりです。自由に子どもたちがセリフ(劇の中でしゃべることば)を作るのです。
※
6号車(班)がとてもじょうずにセリフを言いました。おじいさん役の高藤君がまず先頭を切りました。
高藤君は、歩いてタネをまく動作をしながら言いました。
「さあ、かぶをうえたぞ。おおきなかぶになるんだぞ」
それから、目を大きく開いて、
「やあ! 大きなかぶができたなあ。どれ、うんとこしょ、どっこいしょ!」
「おばあさ~ん」
(おばあさん役の佳奈さんが出てきます)
「大きなかぶだろう」
セリフを作るということがイメージできなかったいくつかのグループも、びっくりして聞いています。
「ほら、高藤君のいまのことばいいでしょう。5つもセリフを言ったよ」
6号車は、劇の中で13のセリフを言いました。
2号車は、これに負けないで何と15個のセリフを作りました。
「どうだい。みんなセリフが入ると楽しいね。どれだけたくさんセリフが作り出せるか練習してごらん」
具体的イメージが浮かんだのか、どのグループもやる気満々です。
教室は、とたんにワイワイガヤガヤ!
しかし劇づくりを楽しんでいる“騒音”です。はりつめた“騒々しさ”です。
「先生、もう1回やっていい?」
「ぼくたちのところね、いっぱいセリフができたよ」
6号車を再び見ると、5人が机のそばにおおいかぶさるように並んで、みんな横一列に肩を並べて、おじいさん役の高藤君の動作を見守っているのです。
「次は、ぼくの出番だぞ」
そんな意気込みでみつめているのです。
[4]きょうは“劇あそび”本番! 1ねん1くみ『あくしゅ』№116(1986,10,6)
♪おおきな~ かぶだよ~
みんなで~ つくった~
たのしい~ げきだよ~
おおきな~ かぶだよ~ (※『大きな歌』の替え歌で)
1ねん2くみの『劇大会』が『大きな歌』の替え歌で始まりました。
「何を歌おうか」
と言ったら、
「大きなかぶだから『大きな歌』がいい」
とみんなが言いました。
「じゃあ、替え歌を作ろう」
というわけで、元気に歌ったのです。
せっかく劇をするからには、大きなかぶがほしいので、オルガンに画用紙をはって『かぶ』をこしらえました。緑の葉っぱもつけました。
※
「おばあさん。かぶのたねをうえにいってくるよ」(あきお)
「いってらっしゃい!」(1号車のみんな)
「おおきなかぶになったなあ」(あきお)
「よし! ぬこう! うんとこしょ、どっこいしょ!」(あきお)
「ぬけないなあ。おばあさ~ん、かぶができたよう」(あきお)
「まあ、大きなかぶができましたねえ」(あい)
見ているみんながクスリと笑います。
それから、まご、犬、猫、ねずみが順に呼ばれていきます。
「うんとこしょ。どっこいしょ!」
「まあ、大きいから、わたし、こしをぬかしそうだあ」(ゆう子)
……。
※
こんな劇もありました。
「おばあさ~ん、かぶのたねをうめてくるよ」
亮君がトコトコと舞台を回る。(黒板の前にひな壇を二つならべています)
「あまい、あまい、大きなかぶになったなあ」
「うんとこしょ。どっこいしょ。」
ズズズズ、ドッシーンと尻もちをつく。
「おばあさん、かぶができた。いっしょにぬいておくれ」
「おおきなかぶだわね」
2人でぬこうとするがぬけません。
おばあさんがまごをよび、それでもぬけず、犬を呼びます。
「わんわん」
と、飛び出す犬。猫も出てくるけどぬけません。
「いつになったら、かぶがぬけるのかしら」
「てつだって! わけてあげるから」
ねずみが出てきてやっとぬける。
みんな転がりながら、
「やったあ!」
「ああ、つかれた!」
「はやく食べたいよう!」
と言って終わる。
2つのグループの劇の様子を紹介してみました。他のグループも負けていません。みんな劇の世界を楽しんでいました。
『表現する』ということは、どれもとても難しいことです。『文を書く』ことも自分の心の表現です。絵を描くことも歌うことも、語ることも! みんな、自分の内側にある世界を客観的に見える世界に引きずり出すのです。『大きなかぶ』の“劇あそび”は、子どもたちが楽しみながら、それぞれの持つ内側の世界を外に向かって表現していくのです。小さなつぶやきを励まして、大きな声のセリフにしてあげると、新しい力にかわっていくように思います。
【いま実践をふり返る】
『劇あそび』の一場面。国語の授業の1時間を使って、各グループが劇を発表します。授業の中でも、おじいさんの言葉やおばあさんの言葉など、想像して自由に発表しました。それを今度は、一つの物語にして子どもたちの手で作り上げ、クラスのみんなの見ている前で発表するのです。ちょっと勇気がいるけれどワクワクする取り組みです。
高藤君の演技と言葉からヒントを得て、どのグループもセリフを作りながら動き始めました。ぼくの仕事は、各グループを回りながら、子どもたちの創り出したアイデアを、見ているみんなが分かるように、そして楽しめるように少し言葉をかけ応援してあげることです。
劇大会本番のところの通信で、あきお君のグループ、1号車を意図的に取り上げていますが、この日、あきお君に大きな試練が押し寄せていました。それを乗り越えての発表です。続きは明日のブログで。