先日、指揮者の小澤征爾(せいじ)さん88歳が心不全のため亡くなりました。

謹んでご冥福をお祈りしたいと思います。

それに伴い、生前親交があった村上春樹さんが寄稿されていたのですが

あまりの素晴らしい文章に、ぜひ私の拙い感想と共にですが、残しておきたいと思ったので

こちらのブログに残そうと思います。

記事は有料記事ですが1ヶ月無料のお試し期間もありますので、ぜひ読んでいただきたいです。

 

 

 

  村上春樹さんの文の凄さ

有料記事なので、問題ない部分で引用していきたいと思います。

 

文章の始まりはジュネーブのコンサートホール。スイスの都市です。

次にウィーンの街角。オーストリアの都市です。

そしてホノルルの公園。アメリカになります。

 

文章にはひとことも「二人とも海外在住で〜」とも「海外を飛び回っていた」など書いてありません。

しかし文章の始まりの

 

”亡くなってしまった小澤征爾さんのことを思うと、いくつもの情景が次々に頭に蘇ってくる。様々な思いももちろん胸に去来し、それなりに渦巻くわけだが、それより前に浮かび上がってくるのはいくつかの断片的な、具体的な情景だ。”

 

という一文にもあるように、お二人にはさまざまな国でさまざまな思い出があるのだろうと感じさせます。

それがスッと読者にもわかるようになっています。

説明が多い昨今の文章、全く説明を入れず、文だけで自然と伝えるのは本当にすごいと思ってしまいました。

私だったら長々とした説明を入れるところです。

いい文章とは余計なものを削り落とした文章だといいます。

これが削りに削った文章なのだと感じました。

日本人のお二人が海外での色々なエピソードをお持ちなのも素敵です。

非日常感に一気に文章に引き込まれます。

 

 

 

  夜明けの同僚という表現の素晴らしさ

 

世界各国での思い出の話が終わると

小澤征爾さんの人柄と仕事に対する姿勢が書かれています。

ここも「尊敬していました」「素晴らしい仕事でした」など安易な表現はされません。

しかし小澤征爾さんの仕事に対する姿勢に尊敬と感嘆を感じます。

圧倒的な文章力と表現力です、凄すぎます。

 

そして最後にこう結ばれるのです。

 

「僕がいちばん好きな時刻は夜明け前の数時間だ」と征爾さんは言っていた。「みんながまだ寝静まっているときに、一人で譜面を読み込むんだ。集中して、他のどんなことにも気を逸らせることなく、ずっと深いところまで」

 そんなときの彼の頭には音楽だけが鳴り響いていたのだろう。おそらくは無音のうちに。総譜を開けば、そこには純粋な音楽世界が展開した。それは哲学の理念と同じように、どこまでも純粋な、それ自体で完結したものだったかもしれない。それは夜明け前の暗闇を必要とするものだったかもしれない。

 並べて語るのもおこがましいのだが、実を言えば僕も小説を書くとき、いつも夜明け前に起きて机に向かうようにしている。そして静けさの中で原稿をこつこつと書き進めながら「今頃は征爾さんももう目覚めて、集中して譜面を読み込んでいるかな」とよく考えた。そして「僕もがんばらなくては」と気持ちを引き締めたものだ。

 そんな貴重な「夜明け前の同僚」が今はもうこの世にいないことを、心から哀しく思う。”

 

 

最初は世界の国から始まり、最後は村上春樹さんの机で終わるという、距離的にも遠い思い出の話から自分の周りの感覚だけの近いものへと変化で終わっています。

読んでいて最初は遠い国から始まったのに、最後は読者も感じられる規模の話になっています。

段々と話が読者にも感じらる範囲の話へと変化しています。すごすぎます。

 

 

  人間は二度死ぬ

 

また、最後の文章に小澤征爾さんの姿はありません。

村上春樹さんが回想していると語られているだけです。

 

作詞家、エッセイストの永六輔の名言に「人間は二度死ぬ」というものがあります。

「まずは死んだとき。それから忘れられたとき。」

 

村上春樹さんは最後に哀しいと言われていますが、記憶には残り続けることが最後に示唆されます。

村上春樹さんの中で小澤征爾さんはこれからも生き続けるのだと感じられます。

 

 

  お二人の会話

村上春樹さんの文章からは、お二人は天才同士であり、共通の音楽という話題もあります(村上春樹さんはクラシック、ジャズ好き)が、会話はとても静かなものであったのではないかと思います。

多くを語らずともお互いに通じ合っていたのではないでしょうか。

 

日本を代表するお二人の親交が垣間みれ大変感動しました。

お二人の中でしか伝わらない感覚がたくさんあったのではないかと想像します。

 

天才がまたこの世から一人いなくなるのはとても寂しいですが、

残してくれたものはたくさんあります。

 

そして私たちはそれを受けることができる。

 

このような不安定な世界情勢や貧困や格差が問題とされる中、

平和な世界で温かい部屋で洗練された音楽や文章を味わうことができる。

これ以上の贅沢、恵まれた環境はないと感謝しなくていけないと思いました。

 

みなさんはどうでしょうか。

 

小澤征爾さんに心より追悼の意を示します。

 

 

 

今日も皆様が笑顔で過ごせますように。

 

占わない占い師 小鳥遊あめ

 

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小澤征爾さんと、音楽について話をする 小澤征爾/村上春樹

 

 

 

 

 

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